SMILE
伸びやかで表現力に富んだジャズ・シンガー、小池真理子さんの前作「BEWITCHED」から4年ぶりのニュー・アルバム。原曲を大事にした素直な節回し。「Samba em preludio」や「Corcovado」といったボサノヴァで、リラックス・ムードに浸れる一方、インスト・ナンバーでもある「On green dolphin street」や、マイルスの「All Blues」「Four」で、じっくりと傾聴させる歌声もまた魅力的。キュートなヴォイスを聞かせる「Summertime」では、ビートを効かせたアレンジが印象的。心にしみるようなメロディのアルバム・タイトル曲「Smile」、そして一言一言を語るように言葉を送りだす「Maybe you'll be there」が実に味わい深く響きます。腕利きのミュージシャンをバックに、小池真理子さんの多彩で幅広い表現の数々が楽しめる好盤です。
二重生活
大学の講義で知ったソフィ・カルの「文学的・哲学的尾行」を実践してみようと思い立った主人公が出くわす様々な出来事。
それらによって主人公が精神的な迷路にはまり込んで行く様子が、微妙な心理描写で描かれています。
尾行相手に選んだ隣人が不倫をしている事を知ってしまう事から
主人公の心にさざ波のような小さな波紋が起こり、それを起点に自分の彼氏への気持ちも揺らぎ
疑心暗鬼に陥って行く様子が丁寧に描かれていて、この辺りは小池真理子独特のやわらかなタッチです。
基本的なテーマ自体が興味を引く内容なだけに展開が非常に面白く、
自然と読み進むスピードも速くなって行きました。
「文学的・哲学的尾行」の精神と、「あまりに世俗的な興味本位の尾行に陥りそうになる自分」の狭間で葛藤する主人公の
悩み苦しむ姿の描き方も、微妙な感情の機微が見事に描かれていると思いました。
しかしその展開で進行して行くストーリーの結末が、正直インパクトに欠けちょっと残念。
小池真理子の代表作には登れない小粒さはありますが、なかなか面白い小説ではありました。
うれしいひなまつりベスト
ひなまつりにぴったりの雰囲気で、お安いし買ってほんとによかったです♪
聞いたことある曲が多くて、親子で覚えて一緒に楽しく歌えそうです☆
1才の娘も気に入ったらしく、歌にあわせて手を叩いたり体をゆらゆら揺らしてニコニコ♪
今年のひな祭りが楽しみです(*^^*)
恋 (新潮文庫)
この小説には3人の主人公がいる。
大学の英文科の助教授「片瀬信太郎」とその妻「雛子」、そして夫婦と親しくしている女子学生「矢野布美子」である。
舞台は1970年代初頭――学園紛争が終焉に向かいはじめた時期である。
布美子も時代の波と無関係ではいられず、全共闘の活動家である恋人とアパートで暮らしたりする。
しかし、片瀬夫妻との出会いが彼女の生活を一変させた。
それは3人を取り巻く激しい時代をも意識の外側に追いやってしまうほどの、個人的で甘く濃密な世界のはじまりだった。
前半の山場は3人が軽井沢の別荘で過ごした2週間の夏の情景に集約される。
ふりそそぐ陽光、その下で同等に生きる植物、野鳥、昆虫、人間たち・・・。森の中でブルーベリーを摘み、ベランダで昼間からビールを飲み、食べては喋り、喋っては笑う。夜はワイン、読書、音楽、抱擁、接吻・・・。セックスに至るまでのなにげない会話、取り交わされる視線、さりげない触れ合い、そんなものがくり返しくり返しふわりと美しい筆致で描かれている。
まるで英国映画のワンシーンを見ているような軽井沢の美しい風景は、これが永遠に続くはずはないと読者に思わせるにはじゅうぶんで、読んでいくうちにかえって不吉な予感に胸がしめつけられてくるような気がする。
そして現実に、早すぎる崩壊がやってくる。
出会いの不思議さ、人間関係の玄妙さ、運命の暗い存在感、そんなものがこの小説の根底にあるように思う。
「自分はそのためにこそ、生まれてきた・・・」という布美子の独白。
他人からどう見られようと、死ぬまでに「それ」を見つけられた人は幸せである。