舞姫 [VHS]
郷ひろみが主人公なので、大したことないと思ってバカにして見始めたが、意外にひきこまれた。
何故かと考えてみると、豊太郎なる人物の優柔不断さ、一見誠実そうで実は自己中心的な役柄が、郷ひろみという人間性とぴったりだったことにあるだろう。また、エリス役のリザ・ウォルフが決して美人ではない。むしろがっしりした顔つきで、そこがリアルさを増しているような気がする。
原作の鴎外の「舞姫」自体の出来がよいこともあるのだろうが、結末は必ずしも原作どおりではないようだ。
舞姫は、森鴎外の代表作で「自伝的」要素もあるので、主人公(大田)を誰が如何に演ずるか、が最大のポイント。篠田監督は、郷ひろみという「意外性」(ミーハー的興味)に賭けたのだろう。その賭けは半分当たったと言えよう。脇役たちが「戯画的」に描かれる中、中心人物達は実に「シリアス」に描かれている。郷も独逸語の特訓を経た様子が窺われるし、懸命の演技が好感を与える。監督は「写楽」でも葉月里緒菜を起用する等、芸術性と娯楽性を上手くミックスする手腕に長けている。ひろみ郷の新境地開拓と言って良いだろう。
山椒太夫 [VHS]
溝口健二監督の映画を観て居ると、神の眼差しで人間を見て居るのではないか?と思ふ事が有る。−−この映画が、まさに、そうである。
この映画は、『安寿と厨子王』の原作である『山椒大夫』を、溝口健二が映画化した作品である。『雨月物語』や『赤線地帯』と共に、溝口健二の最高傑作の一つであると、私は、思ふ。(それにも関わらず、この映画を駄作呼ばわりした映画評論家が居た事を私は、忘れない。1960年代から70年代の日本の映画評論が、いかに愚かな批評に溢れて居たかの一例である。)
田中絹代が演じる母親と、子供たちが、水上で生き別れに成る場面の悲劇性は、溝口健二ならではの物である。又、その母親が遊女にさせられると言ふ設定も、実に、溝口健二らしい物である。そして、最後の親子の再会の場面が与える深い感動は、溝口健二以外の監督では有り得なかった物だろう。
早坂文雄の音楽も素晴らしい。特に、ラスト・シーンの音楽は、彼の映画音楽の最高傑作の一つではないだろうか。
小泉首相が北朝鮮を訪問し、多くの日本人が拉致されて居た事が露呈した日、私が、この映画を思ひ出した事を付け加えておきたい。
(西岡昌紀・内科医)
阿部一族・舞姫 (新潮文庫)
肥後藩主・細川忠利の死に際して、阿部弥右一衛門だけ殉死者に加えられずに生き残ります。
ところが、周囲の取沙汰に耐え切れずに腹を切ります。嫡子権兵衛は侮蔑を受けて武士を捨てようとした行いが咎められ縛り首にされます・・・
その後、一族は藩の討っ手と闘い滅亡してしまいます・・・
封建社会の「殉死」と武家の「意地」を取り扱った歴史其の儘(れきしそのまま)の小説です。
大正期以降、乃木稀典(のぎまれすけ)の殉死事件を機会に歴史小説を手がけるようになったそうです。
文体は、非常に淡々としています。渋いです。ドラマのような波はありません。本当に‘そのまま’といった感じですよ。
上司が死んだら自分も死ぬ・・・できねば、恥さらし。
私には、できそうにありません。臆病者ですね・・・
それとも、現代人として当たり前でしょうか?
山椒大夫・高瀬舟 (新潮文庫)
『山椒大夫・高瀬舟』です。森鴎外の短編集です。比較的晩年の作品が多く収録されています。かなりテーマが深く、難しい作品が多いのは否定しません。
最初はとっつきにくかったですけど、読み始めるとかなり引き込まれました。
杯
普請中
カズイスチカ
妄想
百物語
興津弥五右衛門の遺書
護持院原の敵討
山椒大夫
二人の友
最後の一句
高瀬舟
バラエティーに富んだ作品が入っています。高瀬舟や山椒大夫は鴎外の代表作ともいうべきものですし、興津弥五右衛門の遺書や護持院原の敵討は歴史物、二人の友は自伝的です。
読みにくい興津弥五右衛門の遺書あたりは後回しにして、比較的読みやすい山椒大夫や高瀬舟を先に読んでもいいと思います。
鴎外は軍医であり作家であり、人物として極めてユニークでしたし、作品もまた多彩です。
最近では鴎外の作品が国語の教科書に載らなくなったとか云々という話も聞きますが、ぜひ中高生に読んでいただきたいです。……中高生が読むにはかなり難解ではありますけど。