解 (Psycho Critique)
若い殺人犯が書いた本だと、昨年、幻冬舎から出版された市橋達也の「逮捕されるまで」があります。
市橋の逃亡記は、内容に問題はありますが、短い文章でスラスラ読めました。
出版社が大きかったからなのか、とても話題になりました。
この本は、文章が固く、内容は理屈っぽく、こわだわり・思い込みが多いので、少し読みにくかったです。
小さな出版社が、ひっそりと売っています。
遺族と被害者に対しては、ありふれた型にはまった、とても短かい文章だったので、反省の気持ちが伝わってきませんでした。
事件のおよそ3年前、会社を辞める時から、話は進めれています。
生まれた時から逮捕されるまで、どのように育ってきたのか、詳しく書いて欲しかったです。
会社を辞めるまでは、筆者にとって、ある程度、納得のいく人生だったのではないか。
高校の時から、遊んでばかりいて、進路の選択肢が減った点については、
母親は関係無いはずで、筆者自身の大きな責任を自覚していません。
自己分析が時々、彼にとって都合の良い自己主張・弁解になっています。
他者・精神科医などの専門家による助けがないと、筆者が罪の重さに気付くことは、難しそうです。
母親から、少し変わったしつけを与えられた。
父親については、ほとんど触れられていません。
子供に与える母親の影響を弱める為にも、家族における父親の重要性が浮かんできます。
複数の無関係な人を殺した後に、本を書いた人というと、筆者と同じ青森県で育った永山則夫を思い出します。
永山には、極度の貧しさや親から捨てられる等の辛い体験がありました。
永山にあった特殊性が、この本の筆者には無く、平均的な育ちなので、読んでいて、むなしくなりました。
秋葉原事件―加藤智大の軌跡
「秋葉原無差別殺傷事件」は、2008年(平成20年)6月8日に東京都千代田区外神田(秋葉原)で発生した通り魔事件。
7人が死亡、10人が負傷した。
実行者である加藤智大被告の生年月日は1982年9月28日。当時25歳であった。
このルポルタージュは、被告人より7歳年上である気鋭のライターによって記されている。
執筆態度には非常に好感が持てる。
「結論を導きだして普遍化してやろうという野心」がないのである。
著者独自のどうしてもか書きたかった私見は201ページの5行だけであろう。
そのため、本書は事実のみによって積み重なれて行く。
・金融機関に勤務する同士の夫婦の長男に生まれたこと
・母は被告を極端に支配する子育てをしたこと。
・母の期待に添い、進学校に進んだこと。
・母に口答えしても切ってもらえないので行動で示すようになったこと。
・高層の良心の期待むなしく北大には進めず、短大に進んだこと。
・不細工だから彼女ができないと信じきっていたこと。
・ネットの世界に安住の場所を見つけたこと。
・ささいなことに傷つき職をやめて転々としたこと。
・実は話せる友達は居た事。
これだけの情報があれば、ちょっとした想像の味付けをすれば、被告人の犯行に至る動機とその物語がつづれてしまうだろう。
「進学に熱心な母親の教育に従属して自分を抑えていたものの、一度の挫折ですべてを悲観、やっと見つけたネットという安住の場所にも拒否された男は……」
でも、これは間違っている。なぜならばベタで、分かりやすすぎるからである。精神分析学者などが陥りやすい間違いだ。
青森高校は進学校の範疇ではあるが、たいしたところではないし(マスコミは進学校卒業生の事件というと喜ぶから、そういう形容詞が使われるが)
ネットに没頭している時もオフ会を自ら計画するなど行動派であったのである。
きっと、著者は調べれば調べるほどこの事件を一般化して捉えるのは意味が無いと思ったのだろう。
心の闇はわからないが、読んだ人の心のなかには何かが生まれる。
0号室の客 DVD-BOX1 (3枚組)
人に点数をつける不思議な機械がある0号室で巻き起こるドラマ。1st Story嵐の大野智、2nd関西ジャニ∞の丸山&安田は、点数によって立場が逆転、一喜一憂、修羅場に。3rd、news加藤成亮は心あたたまるストーリー。それぞれ、1回15分で3〜4話。その短い中に凝縮されたドラマは、見ごたえのあるものに仕上がっている。ジャニーズ・アイドル、あなどれない演技者である。
特に1st storyの大野智が、いい。普段は、TVのバラエティー番組で、ほんわかした姿しか見れない彼が、鼻持ちならないエリート・サラリーマンという設定は意外だし、低い点数に驚きとまどうシーンのオーバーアクションなどは、コメディーなのかと思ってしまう程。そして、そのあと展開する、シリアスなドラマに引き込まれる。演技の引き出しの多さに感心します。やっぱり彼には、どこかにスイッチがあるのかなぁ?と思ってしまう。役者スイッチ、歌って踊るアイドルスイッチ、アーティストのスイッチ、etc。
このドラマでは、嵐の歌う主題歌もミステリアスな雰囲気をかもし出し、見終わったあとの余韻にひたるのに一役買っていると思うのですが、歌のはじまりの大野ソロが、また、いい。
実は1st story、TVオンエアを見た時は、よくわからなかったのですが、DVD化で追加シーンもあったようで、とっても分かりやすく、考えさせられるドラマに仕上がっていると思います。途中に挿入されている「esの実験」も考えさせられます。
深夜に放送された15分ドラマとあなどるなかれ、ストーリーも練り上げられてるし、役者も良いし、どれも最後は、心あたたまる結末で、繰り返し見たくなります。
ぜひ、一度見て欲しいです。おすすめです。
死刑でいいです --- 孤立が生んだ二つの殺人
最近の死刑論議は感情的な被害者側の立場から論じられることが多い。もちろんそれが悪いわけではないし、
長年、被害者の人権が無視され続けてきたことの反動とみれば当然の動きでもある。
こういった時代潮流の中で本書は被疑者の生い立ちを追い、環境を追い、精神疾患を追いながら、
再犯防止に向けた問題提議の姿勢を貫く。
犯罪の凶悪性が高ければ高いほど、それを見聞した人の思考は止まり、簡単に極刑を求めがちになる。
だが、そこで冷静に被疑者の存在に立ち返り、社会全体で事件を考えていこうとするジャーナリズムの存在を
なにか久しぶりに見たような気がする。2人の筆者にジャーナリストの原点を見た。
それにしても死刑は難しい。医学の進歩により、10年前までは病名するついていなかった病も
その存在や治療法が分かるにつれ、それらが解明されなかった時代に犯罪者なれば十分な説明がないまま
死刑にされてしまう恐れがある。
レビュー者は死刑賛成の立場であり本書読後もその立場に変わりはないが、死刑制度そのものに後味の悪さのような
ものを感じるようになった。