この二百頁に満たない小品集は、≪雪沼≫という土地での生活を描いたものです。この哀感ある地名は存在しませんが、土地に暮らす人々の生活の一片を垣間見ると、巻末の池澤夏樹の解説にあるように、雪沼で生活しているかのように思えるのが、淡白ながらするりと作品に引き込む文章の魅力なのです。さりげない生活の中にさりげない奇跡を織り込んでいる分、そこに派手さはなく、退屈ととられるかもしれません。ですが、最後の一投にかけるスリル、失われたものへ向ける悲しみ、ささやかな誇りへの英雄譚、大切なものが壊れる瞬間、など、小粒でもピリリとした刺激に満ちた秀作ばかりです。 雪沼とその周辺 (新潮文庫) 関連情報
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