日本企業復活へのHTML5戦略 アップル、グーグル、アマゾン 米IT列強支配を突き崩す
この分野に素人ながら、このような書籍に出会えたことを感謝する。
これまで日本企業は自分たちの個性を打ち出せないままパソコン時代はMicrosoft、モバイル機器はgoogleのプラットフォームに合わせた製品開発を続けざるを得ない日々を送ってきたが、今後は、それまでのOSとは別にブラウザそのものが益々OS化しているために、これまでの開発主導権が特定の企業からW3Cという企業コンソーシアムに移行していることで日本企業にも次世代OS作りへの参画が可能になり、日本企業復活への千載一遇のチャンスとなる、と著者は見ている。
しかし、現実には、W3Cへの年間加盟料が高額(約740万円)であることや同時通訳が付くとは言え、国際会議での席上で英語での自由なやりとりができる日本人が極端にいないこともあって日本企業はまだまだW3Cへの参加には消極的らしい。経営者側にも「標準化が決まったあとに作ればいいじゃないか」という程度の人が多いらしい。それではもはや、遅過ぎるにもかかわらず。また、これまでのW3C会議への日本企業からの参加者がいずれも社内での決定権を持たない人ばっかりだった、ということからも日本企業の経営者の意識の低さが分かる。
本書を読んで、金融・財政政策に関して、数理数学や経済に強いのみならず、それらを表現するための言葉による表現力にも長けた元・財務官僚の高橋洋一氏のような文科系・理科系の垣根を跳び越えた人物を連想せずにおれなかった。彼は現在、本来政治家が主導権を握るべき立法業務、すなわち、本来国会議員の主な任務であるはずの法案の原稿作りの仕事をしているという。つまり、財務省に都合のよい立場に立脚した法案ではなく、本来のあるべき姿を想定した総合的な判断力に基づく難解な独自の法案作成能力を有する人物であるが、本書のようなHTML5の世界にあっても、そんな技術系でありながら、内容を伴った状態で英語も駆使できる人物を役員並みあるいはそれ以上の高給で雇い入れ、W3Cへ送り込む日本企業はないものであろうか。それが日本企業の起死回生の起爆剤になればよいと思う。
蛇足ながら、『ソニー 失われた20年(内側から見た無能と希望)』(原田節雄)を読んで、企業における何世代にもわたる社長や役員の判断力がいかに重要であることを改めて思うとともに、しかるべきチャンスにしかるべき投資を惜しんではならないと思う。