「顕示的消費」が本書のキーワードであるが、ヴェブレンはある種の消費の目的は、モノの享受がもたらす効用ではなく、それが示す社会的地位の顕示効果であるという。有り体に言えば、消費は見せびらかすためにあるということだ。このこと自体は取り立てて独創的なアイデアでもないし、高度消費社会と言われる現代では誰もが口にせずとも日常的に感じていることだ。「顕示的消費」という概念によってヴェブレンがなした経済学への貢献は、消費が欲望の実現(=効用)であるとしても、その欲望が極めて社会性を帯びたものであることを明らかにした点である。ここで大きな意味を持つのが「一般的な思考習慣」=「制度」だ。社会生活を通じた経験の「累積的蓄積」によって人々の「思考習慣」が形成され、それが「制度」として定着する。消費や生産といった経済学上の基礎概念も「制度」の中でこそ具体的な意味を持つ。「制度」は一定の安定性を有するが不変ではない。技術や階級構造など社会生活の基盤となる環境の変化に応じて進化する。この「制度」を経済学の中に初めて明示的に位置付けようとしたのがヴェブレンだ。所与の選好関数を前提に満足の最大化を目指して合理的に行動する個人の相互作用を記述する新古典派経済学は、均質な時間と空間の中で物質の運動法則を解明する物理学をモデルにしている。これに対してヴェブレンを創始者とする制度派経済学は生物学とのアナロジーが成り立つ。個体は種に属するが「制度」は種に組み込まれた行動の準拠枠とでも言うべきものだ。これが個体間の相互作用を規定するのだが、種は個体を規定すると同時に個体も種を規定し、そのプロセスにおいて種も個体も共に進化する。したがって生物学が進化を研究対象とするように、制度派経済学は進化論的科学でなければならない。顕示的消費やその主たる担い手である有閑階級へのヴェブレンの批判は、今となっては古色蒼然とした感があり、さすがに文明論としては読むに耐えないが、本書の価値はその副題「制度の進化に関する経済学的研究」が示すように、思考習慣(制度)がいかに消費行動を規定してきたかを歴史的段階に沿って初めて考察した点にある。この講談社学術文庫版では訳文はちくま学芸文庫版と大きな変化はないが、主流派経済学への方法論的批判を行った「経済学はなぜ進化論的科学ではないのか」が併録されているのが貴重である。 有閑階級の理論 増補新訂版 (講談社学術文庫) 関連情報
どうなっていくのか気になって買いましたが私には所詮縁のない内容でした。 相続税大増税から財産を守る17の裏ワザ 関連情報
天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々
成毛眞さんがHONZにて紹介されていて、気になったので買って読んでみました。クリエイティブな仕事(作家・作曲家・研究者・思想家・建築家・映像クリエイター等)をしていた・している著名な人々161人の、日々の習慣やライフスタイルをひとりひとりまとめたものです。とても有益な本で、なにより仕事へのモチベーションがとても上がりました。メディアなんかだと、"天才"と称されるような人々は皆ものすごい能力を持っていてるようなイメージが漂っている気がするのですが、(例えば、ずば抜けた集中力に、常任離れした発想力、天職など)実際にこの本を読むと、そういった"天才"へのイメージは勝手な先行的想像に過ぎないんだなぁ、と誰もが感じると思います。特に本書に登場する作家たちは、あまりに怠惰な自分と常に戦っています。時代背景がそれぞれ若干異なりますが、現代に置き換えれば、YouTubeをダラダラと視聴したり、訳もなくSNSを眺めたりといったような類の行動を繰り返しています。ぼーっとしたり、寝坊したり、結局一日を無為に過ごしたことを嘆いたり・・・。そういう天才たちの日常を読んでいくことで、逆に力が湧いてくるような感覚が私にはありました。長くなりそうなので、以下興味深かったことを箇条書きでまとめてみました。■散歩を習慣にしている人がとても多かった。クリエイティビティに多大な影響あり?■あのモーツァルトが、常に時間に追われ、恋人のお母さんに嫌味や悪口も言われて、 「あぁ、全然作曲する時間もないし、またお母さんからなんか言われて嫌になるよ・・・」 みたいなことを知人宛の手紙に書き記しているのが面白かった。 優雅な日々、時空間のなかで作曲しているものと思っていたけれど、 "生活していく苦しさ"を味わいながら曲を作っていたなんて知らなかった。■取り上げられている人々が主に50~200年くらい前の欧米人たちだからか、 紹介されている日常がとても興味深かった。 歴史の一ページ一ページにアクセスしているような、ある意味恍惚な読書体験ができた。いずれにせよ、日々時間に追われ、自分のしたいことができないと嘆いているサラリーマンの方や、やはり"怠惰な自分"と戦っていかなければならないフリーランスの方にも、また学生にも、誰でにも有益な本だと思いまいた。面白かったです。ほんとにオススメです。最後に、ここまでしっくりくるタイトルをつけた方に拍手したいものです。『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々 』まさに内容を如実に表しているタイトルだと思いました。 天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々 関連情報