儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)
『玉野五十鈴の誉れ』だけ雑誌『Story Seller』で読んでいたのですが、その時この話はシリーズの中でも番外編なのだろうかという印象を持ちました。しかし今回この本に収録されている話全て読んでも、どれも「本編」というものはこれというものがなかったです。
『身内に不幸がありまして』
『北の館の罪人』
『山荘秘聞』
『玉野五十鈴の誉れ』
『儚い羊たちの晩餐』
全ての話に共通するのは上流階級に関係するもしくは属している女性の一人称で語られていることと(ただし『儚い羊たちの晩餐』の一部は三人称)、『バベルの会』に所属している人がいることぐらい。ですので一気に読まないと把握できなくなるとかはありません。『バベルの会』シリーズとありますが、思い出の描写程度で活動光景が出てくることもないですし。
5つの短編それぞれ登場人物も場所も全く別の話です。最後の『儚い羊たちの晩餐』だけ他の話に出てきた人の名前が出てきますが、それ以外は基本関係ありません。話はそれぞれ別の雰囲気を持ち、1つ読み終えるたびに「次はどんな話なんだ?」とわくわくしながらページをめくっていきました。収録されている話の順番にもこだわりがみられます。
帯などに書かれている「ラスト一行の衝撃」はどんでん返しとは違う気がします。確かにこの最後の一行にははっとさせられました。それぞれの話で驚く理由が違うのですが、基本は一人称ならではの描写によりぼかされてきたことが徐々に明るみになり、最後の一行で読者に確信させるという感じです。途中少しでも読み飛ばすと最後の一行の衝撃が軽いものになるので注意。また明るみになるといっても中には一人称で語る登場人物が真相を語るものもあり、ミステリー=推理小説、それも探偵モノの印象が強い人には肩透かしをくらった気分になるのでは? でもこのラストの衝撃は米澤さんならではのものです。『ボトルネック』などが好きな人ならはまると思います。
カバーの装丁が綺麗ですが、めくっても楽しみがあります。中身にも装丁にもドキドキさせられる一冊。
さよなら妖精 (創元推理文庫)
1991年4月。日常を送っていた高校生たちが違う日常を過ごす少女と出会うことによって、日常の境界が曖昧模糊となっていくひと時を描いた物語。
当初この作家氏の評価も出版物も何も知らないでタイトルへの好奇心のみでこの本を手に取った(笠井潔氏のバイバイエンジェルとのタイトルの相似ゆえにと思われる)。読み始めると一切の無駄な描写を省いた簡易的かつ古典とも思える美しい文体を意識した文章に目を奪われた。そして次第に物語の登場人物たちのいい意味での没個性にはまっていった。
自分のくだらない文章でこの物語を細かく評価する気はありません。ただ、この物語をまったくの無関係な第三者に推薦する根拠としてどうしてもいたいことが一つだけあります。見知らぬ国で起きている悲劇への無関心、当然の中に隠れている不思議、思春期に訪れる自分への可能性の挑戦。全てまとめたそれらは、自分たちの歩んできた軌跡そのものではないのか、ということです。この物語の続きを歩んでいく決意を固めた人間、放棄した人間も等しくこの物語を読んで、今の自分を愛おしく思ってほしいです。
私たちは生きているからです。そんなことを思わせてくれた本でした。
氷菓 限定版 第1巻 [Blu-ray]
有名な推理作家である米澤穂信さんのデビュー作 氷菓(古典部シリーズ)のアニメ化です。
まず作画がとにかくヤバい!綺麗すぎます。
キャラの微妙な表情の変化がとても細かく描かれています。そして背景ですが原作者の出身地でもあり、本作の舞台である神山市のモデルとなった岐阜県 高山市の街並みや自然がとても忠実に描かれていました。何回か高山には行ったことがあるのですがまた行きたくなってしまいましたヽ(='▽`=)ノ主人公たちが通う高校の神山高校も高山市内にある実在の高校がモデルとなっていて驚きました。
作画に関しては春季アニメではダントツの1位、2012年のアニメのなかでは1位、2位の作画だと思います。
そして脚本も素晴らしい!
原作を忠実に再現しながらも少しだけアレンジを加え視聴者に分かりやすく飽きさせないような脚本になっています。あと萌え要素がほとんど無いのも個人的にはグッドでした。
氷菓 (角川文庫)
私が高校の頃、新校舎の横にはまだ旧校舎の一部が残されていて、そこは
文科系の部の部室として使われていた。当時のそんな様子を思い出しながら、
ちょっぴり懐かしい気持ちで読んだ。
学校生活や部活動の中で起こるちょっとしたミステリアスなできごと。奉太郎は
次々とその謎を解いていく。そしてそのことは、同じ部の千反田の叔父が絡む
33年前に起こったあるできごとの真実を掘り起こすことになる。一人の人間の
運命を狂わせたできごとは、高校時代に似たような経験をした私にとっては胸の
痛くなるような話だった。ラストで明かされる「氷菓」という名前に込められた
思いも、切ない。青春とミステリーが組み合わされた「古典部シリーズ」を、
これからも楽しんで読んでいきたい。