風邪の効用 (ちくま文庫)
たとえば 1980年代は、幼児が風邪をひいて熱が出たら、アメリカの小児科医は「バスタブに水を張って、中に子供を漬けなさい」。医者自身が、人体の働きを知らなかった時代。日本においても、風邪は万病のもと。やはり体に関して無知なのである。
著者は説く。風邪は必要があってひく。熱は必要があって出る。熱が出たときは、それを支援して、後頭部を熱いタオルで温めなさい。そうすれば、さっと出きってさっと引く。風邪は体の左右バランスが乱れた状態だから、足湯をして、左右を整えなさい。熱が出たあとの体温が低くなる時期に安静にしなさい。
きわめて具体的なのである。風邪に対する無用な誤解やおそれは、これで解消されるであろう。先駆性に満ちた名著である。
私は、全生社で出版された当時に読んで、深い感銘を受けた。講義録では、「しょっちゅう」を「初中終」と書いたりして、その独特の「かな漢字変換」が面白かった。文庫版では、読みやすい文体になっているのが、残念といえば残念。
眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎
本書は、プリオンに関するノンフィクションである。
装丁がヘンテコ?で、成毛眞氏の推薦がなければ、絶対
買っていない一冊だと思う。なぜに雲に眼がついているのか
未だに不明である。
そんな状況ではあるものの、本書は知的好奇心を刺激する
稀有な一冊だと思う。
著者自身も難病を患っており、この物語の数奇な人生に対して、
決してひとごとではない。
ひところ大騒ぎになった狂牛病の原因因子とされてきた、
プリオンをそれが発見される経緯を辿りながら、真実に迫っていく
のだが、おどろおどろしい、ホラー映画のような状況が
全編を通して、醸し出されている。
結論からいくと、プリオン病に感染していまうと現在の科学では
完治の見込みはない。原因が解明したからといって、未だこの難病で
苦しむ人がおり、状況としては何も変わっていない。
小生の一族も比較的脳の病気で倒れる人が多いので、
他人事のように感じられないことが多々あった。
小生は、理系出身ながら割に合わないので、文系の仕事をしている現状、
理系や科学が軽んじられることが非常に辛いのだが、
科学は、社会を照らす、光となりえるのだとおもう。
この本のように現状に至って完治の方法が見つからずとも
希望という光を差し込みえたのは、唯一科学なのだからと。
妄信されている何かが、科学によって切り開かれていく、という
見方からも、単に変わった話としても、読み応えが十分な一冊だった。
インフルエンザ・ワクチンは打たないで!
11歳の娘に初めてワクチンを打ちました。過去にインフルエンザ脳症の会で、ワクチンの副作用は学んでいたのですが、今年は家庭の事情もあり受けてみようかと思ったのですが・・・。後悔しています。元気印の娘が、翌日から40℃近い高熱でぐったりし、4日たった今でも熱は上がったり下がったりしています。小児科では副作用ではないの一点張りですが、受けた翌日からこんなにめったにない症状が出るなんて副作用以外の何物でもない。そんなときにこの本に出会いました。受けたことを心から悔やんでいます。お金を出してわが子を病気にしてしまった気分です。これ以上副作用が出ないことを祈ります。
いつもの治療を見直す!かぜ診療パーフェクト
一般内科の外来をしていると、いわゆる「かぜ」の患者は多い。しかし自信を持って診療できていたとは言い難い。
恥ずかしながら、市販の総合感冒薬とこれまで処方してきた総合感冒薬との違いも意識していなかった。
この書籍で目から鱗が落ちる気がした。研修医の皆さんにもぜひお勧めしたい。
ただ第五章の「循環器内科からみた、かぜ」の項のAdvanced Lectureは、内容が前後とあっていない。原稿の誤りなのだろうか?
狂犬病再侵入―日本国内における感染と発症のシミュレーション
日本は世界でも数少ない狂犬病清浄国である。狂犬病を撲滅してから半世紀がたつ。それは喜ばしいことなのだが、身近にない病気になったがゆえに、狂犬病についての正しい知識を持っている人が少ないように思う。日本に発生していないだけで、世界中のさまざまな国で、狂犬病で命を落としている人が数多く存在するというのに・・。
この本では、狂犬病のメカニズムや予防と治療の方法に始まって、日本がどのように狂犬病を撲滅していったかに詳しく触れている。飼い犬の登録とワクチン接種の義務化、厳しい動物検疫、疑わしい野犬の駆除、この三本柱の方法で日本は世界に先駆けて狂犬病の清浄に成功した。
しかしそれで安心してはいられないのだ。もしも狂犬病が再侵入したら・・。その可能性を多方面からシュミレートした事例が後半にたくさん掲載されている。たとえば、海外旅行で犬や野生動物に噛まれ、帰国後に発症するケース。(実際に最近日本での死者が出ている)検疫を受けずに密輸入される動物から発症するケース。外国船から無許可、無検疫で上陸する犬が媒介するケース。やたらに恐怖心を抱く必要はなく、ここで大切なのは正しい知識を身につけることなのだと思う。十分に防げる病気だからこそ、なのである。
すべての哺乳動物が感染し、発症すれば死亡率100%の恐ろしい病気である狂犬病。ただ義務だから・・と犬に受けさせてきた狂犬病ワクチン接種についても深く考えさせられた。本書はとても読みやすく、良書だった。