「グッバイ、レーニン!」オリジナル・サウンドトラック(CCCD)
それは、ヤン・ティルセンの新譜ということで気になってはいたけれどまだ手にしていない時。私は某テレビ番組のBGMにくぎ付けになりました。それは、一度も聴いたことのない曲で、しかも“楽器の演奏だけなのに”、確かにヤン・ティルセンの曲だと直感したのです。そしてすぐに買い求め、見事に的中してしまいました。
“この音は彼でしかあり得ない!”という音なのです…。
『アメリ』で有名になったヤン・ティルセンですが、あの面白く軽妙なアコーディオンの世界とは別に、彼にはとても深遠な感性があります。私はその深遠な感性の方こそ、彼の醍醐味、世界観だと思います。そしてこの作品は、その「深遠」な部分を十二分に見せてくれます。
ヤン・ティルセンは楽器を多様に操り、「一人でオーケストラを演じる男」とも称された人です。この作品の骨はピアノです。ピアノが繊細に大胆に流れてゆく中、その低音に混じりコントラバスが胸の底に響き、突然破裂音のようなトランペットが静寂を切り裂きます。煽情されるようなはっとする音です。それからこもったオーボエやクラリネット等の管楽器も、霧がかったドイツ的なムードを演出します。
でも決して暗くはありません。言うなれば、「一面の霧か靄に一条の光が射す…」といった感じです。悔い改まりたくなるような、心が洗浄されるような音楽です。
最近方々の番組のBGMで聴かれるヤン・ティルセンですが、これは、ステレオの前かヘッドホンで、聴き入るべき音楽だと思います!ただのサントラでは終わりませんよ!
グッバイ、レーニン! [DVD]
ベルリンの崩壊で秩序の乱れた東ドイツを、コメディタッチで描く作品である。
心臓発作で八ヶ月の間昏睡状態に陥っていた母が目覚めたときには、ベルリンの壁の崩壊と共にかつての東ドイツの姿はなかった。
母に心的ショックを与えないように、必死になって旧東ドイツを取り繕う息子の姿は滑稽に描かれるが、それは同時に西側の文化の流入が急激に訪れたことを意味している。
それに順応していく若者たちと、取り残されてゆく老人達の姿に、やるせない想いを抱いた。
それは、撤去されるレーニンの銅像が、まるで母に向かって手を差し伸べているようなシーンに象徴されているように思う。
このようにこの作品は、東ドイツ側から描かれているが、我々がニュースで見聞きした明るい部分の陰に隠れて、こうしたこともあったことが歴史の残酷さを伝える。
この作品を作れるようになったのは、ドイツの人々がドイツ統一を歴史の一片として振り返る余裕が生まれたからかもしれない。
漫画版 世界の歴史 9 ロシア革命と第二次世界大戦 (集英社文庫)
教科書が面白くて歴史好きになった、という大人はほとんどいないだろう。教科書には、歴史を面白くする物語性が欠けているからだ。多くの大人が歴史小説を通じて歴史好きになっているのは十分な理由がある。
しかし、歴史小説は世界史の大きな流れをざっとつかむのには適していない。勉強する気さえあれば、十巻、二十巻におよぶ優れた一般向けの歴史書もいくつも出ているが、読破するには時間と忍耐がいる。その意味で漫画、しかも文庫版という手軽な形で世界史の大雑把な流れをつかむことができるこのシリーズは価値が高い。こんなに簡単に読めるようになってなお、世界史の「せ」の字も知らないのではもったいない。今勉強中の中高生も、復習したい大学生や大人も、ぜひ手にとって読むべきだろう。その気になれば一日で10巻全部通読できる。
この第9巻はロシア革命と20世紀前半の中国史、そして大恐慌から第二次大戦あたりの経緯を扱っている。
現代史になればなるほど、歴史叙述には政治的に微妙な問題が多くなるが、それはこのシリーズについてもいえるようで、この巻には読んでいて首をかしげたくなる個所がいくつかあった。
ロシア革命とソ連についての点が甘いこと、ローズベルト大統領が単純に偉人かつ善人として描かれていて、真珠湾攻撃が全くの奇襲とされている点には違和感をもった。彼が人種主義者であったことを描けとまでは言わないが、真珠湾に至る過程で、ローズベルトが対日締め付けを強めて結果的に日本を開戦へと追い込んだことくらいは書いても良かったのではないか。その一方、日中戦争で南京事件について全く触れないのもどうかと思う。南京事件の真相については議論があるが、何の知識もないでは済まされないからだ。
こうした欠点はあるが、何も知らない人、習っても忘れてしまった人が基礎をおさらいする目的には十分役立つ本だと思う。
まんが 反資本主義入門
表紙に「まんが」とあるのを勘違いしてお宅の坊やお嬢さんが持ってきたら、
迷うことなく買うなり借りるなりしてあげよう。おめでとう、それであなたの子
供も反資本主義の徒になれる。本書はタイトルとおり、反資本主義者入門
のまんがだ。上の画像だとわからないが、カバーを取ると真っ赤っかな表紙。
さすがだ、表紙からしてすでにキテるぜっ!
まずは敵情視察といわんばかりに、第一章は資本主義の解説にあてられる。
ここであなたの子息は自分の暮らしがなんと資本主義に毒されているかを思
い知るに違いない。第二章からは反資本主義、というか大きくくくって人類の
抵抗の歴史。坊やが「漢字が多くて読めないや」と不平を漏らすなら、毎晩寝
る前に数ページずつ読み聞かせてあげるもよし、学校の朝読書の際に担任
教師にわたして、教室で朗読してもらうもよしだ。
第三章と第四章では、結局失敗に終わった伝統的左翼ではない、いわばもっ
と融通の利く今の左翼についての解説、紹介がなされる。とくに四章では具体
的な活動団体、MSTやNBA(バスケットではない)、WMW(プロレス団体では
ない)の活動を紹介し、ページの下にはその運営するサイトのURLまで記載さ
れているという気合いに入り用だ。「さあ、今すぐ行動をおこせっ」ということだ。
坊やが「HP見たい」といえば、英語文を訳して読んであげるのが親のつとめっ
てなもんだ。
ただ、これは他の評者も指摘されていることだが、いつものごとく結論部は曖昧
だ。これは新旧左翼に共通することだろうが、明確な「対案」は出されない。しか
し、本書の描くような新しい左翼からすれば、教条的に上からああしろこうしろと
いうこと自体がよくないことなので、しかたなくはあるか。
これを読み終わったあなたの子供は、著者あとがきの「自分にできることを考え
て」という文言に、まずあなたへ小遣いアップの交渉を仕掛けてくるはずだ。
そのときはすかさず、「これを読んでからになさい」と『ミッキーマウスのプロレタ
リア宣言』を差し出せるように、用意しておこう。