四雁川流景 (文春文庫)
架空の中小都市に住む様々な境遇の人々の小さなドラマを短編連作小説としてまとめている。僧侶でもある著者ならではの視覚で、誰しも避けられない死や離別、病気、ぼけなどのテーマを取り上げられている。各場面の描写は過剰すぎない程度に精妙さでリアリティーがあった。強く感じたのは、登場人物それぞれの抱えている問題や哀しみに対する作者の優しいまなざしである。解決の手立てはなく、どうしようもない問題なのだが、いい意味でのあきらめ、区切りが付いたという印象があって、各編に爽やかな読後感感じられた。
テーマや視点の深さということでは、精神科医である箒木蓬生が特養老人ホームを描いた「安楽病棟」などの作品、あるいは同じ街に住む市井の人々を描いたという点ではジェームズ・ジョイスの「ダブリンの人々」を連想させる。いい本だと思う。
テーマや視点の深さということでは、精神科医である箒木蓬生が特養老人ホームを描いた「安楽病棟」などの作品、あるいは同じ街に住む市井の人々を描いたという点ではジェームズ・ジョイスの「ダブリンの人々」を連想させる。いい本だと思う。