グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
「SFマガジン」で短編をいくつか発表して、高く評価されながらも、ここ10年は沈黙していた幻のSF作家、飛浩隆の新刊にして初の長編(私もこの作品で知ったんだけど)。
舞台はコンピューター上に存在する、今は放棄された仮想リゾート。サイバースペースものとしては、この舞台自体はそれほど斬新なものではないが、現実の人間=ゲストが千年間訪れない世界で、ゲストを歓待するために存在するAIたちを描くという設定が秀逸。AIたちは、自分がAIであることも、この世界が何らかの理由で放棄されていることも認識している。それゆえに、この穏やかな、停止した世界は、美しいと同時にどこかもの悲しい。その平和な世界に「蜘蛛」と呼ばれる存在が、突然攻め入ってきて、AIたちと「蜘蛛」の戦いがストーリーの中心となる。
この物語は残酷だ。AIは次々と「蜘蛛」に殺されていく。とびきり残酷なやり方で。最大限の恐怖と苦痛を与えられて。そしてAIたちが追い詰められていくうちに、ゲストの歪んだ欲望をぶつけられるこの世界そのものが、実はひどく残酷なものであることが浮かび上がってくるのだ。
しかしまた同時にこの物語は美しい。世界観を支える様々なアイデアは、非常に美しいイメージを喚起させる。残酷な世界の中で、語られるAIたちの心情も繊細だ。相当に救いのない話であるのに、その読後感はさわやかである。
作者はあとがきで「清新であること、残酷であること、美しくあることを心がけた」と語っているが、まさしくその通りの作品。
舞台はコンピューター上に存在する、今は放棄された仮想リゾート。サイバースペースものとしては、この舞台自体はそれほど斬新なものではないが、現実の人間=ゲストが千年間訪れない世界で、ゲストを歓待するために存在するAIたちを描くという設定が秀逸。AIたちは、自分がAIであることも、この世界が何らかの理由で放棄されていることも認識している。それゆえに、この穏やかな、停止した世界は、美しいと同時にどこかもの悲しい。その平和な世界に「蜘蛛」と呼ばれる存在が、突然攻め入ってきて、AIたちと「蜘蛛」の戦いがストーリーの中心となる。
この物語は残酷だ。AIは次々と「蜘蛛」に殺されていく。とびきり残酷なやり方で。最大限の恐怖と苦痛を与えられて。そしてAIたちが追い詰められていくうちに、ゲストの歪んだ欲望をぶつけられるこの世界そのものが、実はひどく残酷なものであることが浮かび上がってくるのだ。
しかしまた同時にこの物語は美しい。世界観を支える様々なアイデアは、非常に美しいイメージを喚起させる。残酷な世界の中で、語られるAIたちの心情も繊細だ。相当に救いのない話であるのに、その読後感はさわやかである。
作者はあとがきで「清新であること、残酷であること、美しくあることを心がけた」と語っているが、まさしくその通りの作品。
グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ
本当は続編を読んでから書くべきなのだろうが、面白かったので。
しばらくこういった本格的なSFからは遠ざかっていたので、どんな位置を占めるのかは皆目わからないが、久々にわけのわからない法則でできたわけのわからない世界を彷徨う感覚を堪能した。文章の巧みさも、私のようなSF素人の読者をぐんぐん引っ張っていく要素の一つであろう。
書店で、あるいはこのサイトで表紙を見て気になっている方、ぜひ読むべきだ。ジャンルなど問わない小説の面白さがここにある。
私も続編はこれから手に入れなきゃなのだが、物すごく楽しみ。
しばらくこういった本格的なSFからは遠ざかっていたので、どんな位置を占めるのかは皆目わからないが、久々にわけのわからない法則でできたわけのわからない世界を彷徨う感覚を堪能した。文章の巧みさも、私のようなSF素人の読者をぐんぐん引っ張っていく要素の一つであろう。
書店で、あるいはこのサイトで表紙を見て気になっている方、ぜひ読むべきだ。ジャンルなど問わない小説の面白さがここにある。
私も続編はこれから手に入れなきゃなのだが、物すごく楽しみ。
象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)
■優秀なSF作家が島根に居る。彼の名は飛浩隆。1960年生まれ。近未来SF「夏の虫」で94年の自治労四十周年記念懸賞小説最優秀賞受賞。現在自治労文芸幹事でもある(実は私も四国地連の自治労文芸幹事なので飛氏と面識がある)。氏は、商業誌の世界では80年代にプロ・デビューし『SFマガジン』に中短編を発表してきたが93年の作品を最後に沈黙。書き下ろし作品『グラン・ヴァカンス 廃園の天使I』(早川書房、02)が、いきなり2003年度の日本SF大賞候補作となり関係者の度肝を抜いた。
■今回紹介する『象(かたど)られた力』(ハヤカワ文庫)は中短編集。星を滅ぼすほどの力を秘めた文様・図像の謎を追う表題作、宇宙を折りたたむことで超光速を実現したため邪悪な空間世界を招来させてしまう「呪界のほとり」等、4編を収録。目くるめく読書体験が味わえる。芳醇な想像力、硬質緻密な文章、斬新なアイディア。極上のSF世界がここにある
■今回紹介する『象(かたど)られた力』(ハヤカワ文庫)は中短編集。星を滅ぼすほどの力を秘めた文様・図像の謎を追う表題作、宇宙を折りたたむことで超光速を実現したため邪悪な空間世界を招来させてしまう「呪界のほとり」等、4編を収録。目くるめく読書体験が味わえる。芳醇な想像力、硬質緻密な文章、斬新なアイディア。極上のSF世界がここにある