犬―他一篇 (岩波文庫)
元々随筆や詩の分野で筆名高い作者で、創作小説は寡作といってよい中勘助だが、古代印度を舞台にした幻想的な本作は衒いのないエロティシズムと暴力的な愛憎が横溢する異端かつ至高の一編。名作「銀の匙」での甘美な郷愁を忘却の彼方へと一蹴する高圧的なテンション。しかしこれは紛れもなく恋愛小説であり、血と肉と骨が狂奔する熾烈な闘争、それも一つの愛の姿と謳う大正文学の隠れた金字塔である。
日本合唱曲全集「雨」多田武彦作品集
数少ない、男声合唱のみを扱ったCDです。
アカペラ専門作曲家:多田氏の作品には抒情的作品が多く、
男声合唱を経験した者であれば、多田氏の名を知らぬ者は恐らくいないでしょう。
日本合唱曲全集の中で、このCDが最も良く売れていたのもうなづけます。
このCDの目玉は、男声合唱組曲「雨」の中の終曲:雨です。
平易な言葉、平易な旋律、平易な和声の中に、
底の知れない人生への「問い」が込められています。
また、演奏団体は知る人ぞ知る、男声合唱の名門、京都産業大学グリークラブです。
この団体の歌った雨に勝る演奏が今後現れることは無いでしょう。
この曲の中で独唱を担当する、尾形光雄氏の声がまた素晴らしい。
他にも男声合唱の真髄とも言うべき作品がずらりと並んでいます。
どれも日本人の心を打つような作品ばかり。是非お聴き下さい。
アカペラ専門作曲家:多田氏の作品には抒情的作品が多く、
男声合唱を経験した者であれば、多田氏の名を知らぬ者は恐らくいないでしょう。
日本合唱曲全集の中で、このCDが最も良く売れていたのもうなづけます。
このCDの目玉は、男声合唱組曲「雨」の中の終曲:雨です。
平易な言葉、平易な旋律、平易な和声の中に、
底の知れない人生への「問い」が込められています。
また、演奏団体は知る人ぞ知る、男声合唱の名門、京都産業大学グリークラブです。
この団体の歌った雨に勝る演奏が今後現れることは無いでしょう。
この曲の中で独唱を担当する、尾形光雄氏の声がまた素晴らしい。
他にも男声合唱の真髄とも言うべき作品がずらりと並んでいます。
どれも日本人の心を打つような作品ばかり。是非お聴き下さい。
日本合唱曲全集 多田武彦作品集
混声合唱を20年以上続けてきました。大の多田武彦ファンで、多田氏の楽譜・CD・レコードも沢山収集してきました。昨年は、多田氏の指揮で「柳河」を歌い、感激した思い出を持っています。
このCDは、多田武彦の20代から30代にかけて生み出された男声合唱組曲の名曲を集めた物です。録音年代にばらつきがありますが、日本を代表する名指揮者と実力あるグリークラブの演奏ですので悪いはずはありません。お手本のような演奏ばかりです。
24歳の時に作曲した『柳河風俗詩』は、日本の男声合唱組曲を代表する曲です。師事していた清水脩の元で、作曲の勉強のためのエチュードとして作曲された作品です。後の多田氏の作風とエッセンスがその4曲全てに表れているように思います。
北原白秋が、古里「柳河」に対して、郷愁たっぷりに描いた一連の詩がとても親しみやすく、白秋特有の不思議な世界がそこに描かれています。
多田氏の全作品に共通することですが、そのモティーフとなる詩の選定からして的確で、情景がはっきりとわかる素晴らしい詩ばかりを選んでおられます。長い間、多くの人に愛唱されるためには、曲だけでなく、「詩」の存在の意味を忘れてはいけないと思います。
冒頭の印象的な男声ユニゾンの呼びかけからして個性的です。全編を通してノスタルジックで、悲しげで、日本情緒もたっぷりと含まれています。至極簡単なのに、味わいぶかい仕上がりになっているところが愛唱される所以でしょう。男声合唱特有の部厚い密集和音の縦割りのハーモニーです。
当時、多田氏は、作曲するためにオルガンを使っておられたというお話を聞いたことがありますが、まさしく、オルガンの響きです。ラストの郷愁を誘う終わり方も印象的な名曲です。
他の組曲もどれも大好きで、多くの「タダタケ」ファンにとっては必携のCDでしょう。
このCDは、多田武彦の20代から30代にかけて生み出された男声合唱組曲の名曲を集めた物です。録音年代にばらつきがありますが、日本を代表する名指揮者と実力あるグリークラブの演奏ですので悪いはずはありません。お手本のような演奏ばかりです。
24歳の時に作曲した『柳河風俗詩』は、日本の男声合唱組曲を代表する曲です。師事していた清水脩の元で、作曲の勉強のためのエチュードとして作曲された作品です。後の多田氏の作風とエッセンスがその4曲全てに表れているように思います。
北原白秋が、古里「柳河」に対して、郷愁たっぷりに描いた一連の詩がとても親しみやすく、白秋特有の不思議な世界がそこに描かれています。
多田氏の全作品に共通することですが、そのモティーフとなる詩の選定からして的確で、情景がはっきりとわかる素晴らしい詩ばかりを選んでおられます。長い間、多くの人に愛唱されるためには、曲だけでなく、「詩」の存在の意味を忘れてはいけないと思います。
冒頭の印象的な男声ユニゾンの呼びかけからして個性的です。全編を通してノスタルジックで、悲しげで、日本情緒もたっぷりと含まれています。至極簡単なのに、味わいぶかい仕上がりになっているところが愛唱される所以でしょう。男声合唱特有の部厚い密集和音の縦割りのハーモニーです。
当時、多田氏は、作曲するためにオルガンを使っておられたというお話を聞いたことがありますが、まさしく、オルガンの響きです。ラストの郷愁を誘う終わり方も印象的な名曲です。
他の組曲もどれも大好きで、多くの「タダタケ」ファンにとっては必携のCDでしょう。
銀の匙 (岩波文庫)
主人公「私」は病弱な身体で,叔母に可愛がられて育ったため,外に出るときは叔母の背中にしがみつき,五歳になるまでほとんど土の上に足をついたことがないほどであったという。
この叔母が持つ面白い話は無尽蔵で,それを聞いてそだった「私」は感受性豊かな子どもに育ちます。
たとえば,私が兄と兄の友人とともに海に行くシーンがあります。
ひとつの波が,ざぶーんと砕けて,じーっと泡が消えて,まあよかった,と思うまもなく次の波が,ざぶーん,と砕ける。ざぶーん,ざぶーんと打ち寄せる波の音をきくと,自然と胸が迫って涙がこぼれ出す。
それを見た兄の友人からどうしたのかと聞かれ
「波の音が悲しいんです」
このような感受性は,男の子の間では一般的に受け入れられないのがふつうで,男はもっとしっかりしなければならない,と言われるしまつです。
さて,本書は,子ども自身の感情世界が素直に描き出されている,と評判ですが,なぜそのようなことができたのでしょうか。本書の中につぎのような文章があります。
「私は常に子どもらしい驚嘆を持って自分の周囲を眺めたいと思う。人々は多くのことを見慣れるにつけただそれが見慣れたことであるというばかりにそのままに見過ごしてしまう」
我々誰もが子どもの頃持っていた,あらゆる物事に対する驚嘆が,男らしくないから,とか子どもっぽいとかといった理由からか,いつの頃からか忘れ去られてしまった。そういった感覚を意識的に失うことなく維持することができた作者だからこそ,本書のような瑞々しい作品を残すことができたのでしょう。
この叔母が持つ面白い話は無尽蔵で,それを聞いてそだった「私」は感受性豊かな子どもに育ちます。
たとえば,私が兄と兄の友人とともに海に行くシーンがあります。
ひとつの波が,ざぶーんと砕けて,じーっと泡が消えて,まあよかった,と思うまもなく次の波が,ざぶーん,と砕ける。ざぶーん,ざぶーんと打ち寄せる波の音をきくと,自然と胸が迫って涙がこぼれ出す。
それを見た兄の友人からどうしたのかと聞かれ
「波の音が悲しいんです」
このような感受性は,男の子の間では一般的に受け入れられないのがふつうで,男はもっとしっかりしなければならない,と言われるしまつです。
さて,本書は,子ども自身の感情世界が素直に描き出されている,と評判ですが,なぜそのようなことができたのでしょうか。本書の中につぎのような文章があります。
「私は常に子どもらしい驚嘆を持って自分の周囲を眺めたいと思う。人々は多くのことを見慣れるにつけただそれが見慣れたことであるというばかりにそのままに見過ごしてしまう」
我々誰もが子どもの頃持っていた,あらゆる物事に対する驚嘆が,男らしくないから,とか子どもっぽいとかといった理由からか,いつの頃からか忘れ去られてしまった。そういった感覚を意識的に失うことなく維持することができた作者だからこそ,本書のような瑞々しい作品を残すことができたのでしょう。
銀の匙 (角川文庫)
中勘助は何と言ってもその文体が非常に好きです。
独特の効果的な比喩表現を用いた、さらっと流れゆくような涼やかな文章に、私はある種の癒しを感じます。
作者の過去を作者とともに振り返っているうちに、自分の幼かった頃が思い出されて、不思議な哀愁と懐かしさが込み上げてきて涙が出ました。
美しい情景と、そのなかに生きる人々。
淡々と過ぎてゆく静かなる日々。
生があり、死があり、出会いがあり、別れがあり。
そうして成長していく勘助少年の姿は実に美しく印象的です。
それにしても自分の少年時代をよくこんなに覚えているなあ…
独特の効果的な比喩表現を用いた、さらっと流れゆくような涼やかな文章に、私はある種の癒しを感じます。
作者の過去を作者とともに振り返っているうちに、自分の幼かった頃が思い出されて、不思議な哀愁と懐かしさが込み上げてきて涙が出ました。
美しい情景と、そのなかに生きる人々。
淡々と過ぎてゆく静かなる日々。
生があり、死があり、出会いがあり、別れがあり。
そうして成長していく勘助少年の姿は実に美しく印象的です。
それにしても自分の少年時代をよくこんなに覚えているなあ…