てんのじ村 (文春文庫)
著者が直木賞を受賞するのは、6度目の候補作となったこの作品でした。
大阪を舞台にした物語には、芸人がよく描かれます。
芸人というのは大阪を代表する職業でもあるのかな、と思います。
終戦の日を舞台上で迎えた芸人達。自分達の出番などなくなってしまった荒れた時代にも、肩寄せあい苦しい日々を冗談を言いもって暮らしていきます。
てんのじ村は、多くの芸人が集まり、いつしか芸人村と呼ばれます。
TVの時代を迎え、売れっ子になった芸人達が次々と村を出てゆくのですが、何故か二度と戻ってこようとはしません。
たまたま休みの日に大阪に遊びに来て舞台に立った主人公シゲルは、いつしか最古参の村の住人になっていました。
消えゆくてんのじ村と人生の岐路で偶然の引き合わせで芸人を選択してきたシゲル。
80歳を過ぎてやっと来た道を振り返りますが、最高齢の芸人を目指そうと自分に言い聞かせます。
大阪の人情といいますやろか、寂しゅうても冗談言いもって生き抜いてゆく人々の姿が何とも言えず、良いです。
大阪で生まれた開高 健
12月9日文豪・開高健さんの12回目の命日に一筆啓上。本書は、親しかった人々か寄せた文章だけに人物像が浮かび上がってくる。一つだけあげるなら、第'U部「こうして作家開高健が生まれた」の第1章「開高健と佐治敬三・トリスをめぐる二人の冒険」での坪松氏の記述。開高さんの文章力はコピーを書くことで鍛えられた(P190)とする指摘は刮目に値する。