帯に書いてあったこの言葉を信じて読み始めたので、浅田次郎の過去の作品にもあるような、不運続きの「くすぶり」が幸福になる話と思って読んだら大間違い。
そもそも、この言葉の通り「不幸の分だけの幸せがある」というのなら、物語の舞台となる古アパートの住人たちは、もっと幸せになるべきだと考えずにいられません。

運河のほとりの古アパートは、身を隠しながらとぼとぼ歩く人間が気がついたら立っているような場所にあります。七つの部屋に住んでいた人々は去り、今はすべて空室。
管理人は一つ一つの部屋を案内しながら、住人たちの物語を語っていくという趣向です。
ありがちな設定なようでいて想像通りに話がすすまないので、最初は話の世界にぴったりはまれない自分を感じましたが、ふと胸の奥が震えるような気がしました。