ピース
合唱王国イギリスの少年聖歌隊の歴史と伝統を感じるような演奏でした。
冒頭の「サンクティッシマ」「永遠の時」など、遥か遠くの天上の世界から降り注ぐようなボーイ・ソプラノの透明な響きがとても魅力的です。高音の済みきった美しさは格別ですし、これまで多くのアルバムが世界中で支持されたリベラの実力と魅力の理由がよく分かる清楚な気分に包まれる歌唱でした。
ジョン・ラター作曲の「A Gaelic Blessing」である「ディープ・ピース」は実にいい演奏ですね。何回聴いても癒されます。このイギリスの名作曲家・ラターの生みだした混声合唱の名曲をボーイ・ソプラノで歌うことでより音楽が夾雑物を取り除きより純化されて再提示されたように受け取りました。
そのノン・ビブラートで硬質の声は、人生において少年期の限られた時代しか持ち得ない宝物のような一瞬の輝きを持っていました。これを聴いていますと、人の歌声はもともと「癒し」という側面を持っていますが、少年達が織なす奇跡のようなハーモニーは、様々な俗世の悩みを遠くへ追いやる特効薬のような存在なのかもしれません。
CMに使用され、ドラマの主題歌としても使用された「彼方の光」の精緻なアンサンブルと純度の高い声部の重なりから生まれる豊かな倍音が聴く者の心をとらえ、心地よさと安らぎを与えてくれるようでした。リベラの透明感あふれるサウンドには、ヒーリング・ミュージックという側面を持っていると感じられました。
変声期までの限られた時期にしか残せない録音と言うものは実に儚いものですし、記録として残さないと語り継げません。その意味でこのアルバムの価値はこれからも意味あるものとして残っていくのでしょう。
テノール・アリア名曲集
講義で評論をするときに参考になるかもしれないと買ったわけだが、聴き始めるとそんなことはもう頭に浮かばなくなっていた。ステレオがビブラートしているというのは本当。テノールの醍醐味が十分に味わえる。
黒人霊歌集
洗練されたとても美しい発声ですので、『黒人霊歌集』特有の「魂の叫び」が伝わってくるかな、と思いながら聴きましたが、心の奥底に秘められた「哀しみ」がその真摯な歌声から伝わってきました。
バーバラ・ヘンドリックス自身のコメントにもありましたが、幼い頃から、教会を中心とした生活を送り、礼拝中に歌われる「黒人霊歌」との出会いはとても感動的だったと述べています。彼女の血に流れる「ルーツ」がこのような「哀しみの中から生まれる希望」を表現させているのだと感じました。
元々は1983年に発売されたものと1998年に発売された2枚のCDを1つのセット(2枚組)として発売された物ですから、「ジェリコの戦い」などは2つのヴァージョンを聴くことができます。
2枚目のCDは、ザ・モーゼス・ホーガン・シンガーズの合唱と一緒に歌っています。その分厚いハーモニーがまた「黒人霊歌」の醍醐味ですね。特に応答関係を持つ合唱曲にその魅力を感じました。
バーバラ・ヘンドリックスも、バック・コーラスがこれだけ素晴らしいと一層映えますね。
「時には母のない子のように」「誰もわたしの悩みを知らない」「深い川」「しずかに揺れよ、懐かしのチャリオット」「ギレアデには乳香が」「そっと行こう」「主はダニエルを連れ出されたのではなかったの」「けっして、ぶつぶつおっしゃらなかった」「いい知らせじゃないか?」という有名な曲が沢山収録されていますので、『黒人霊歌集』の好きな方にはたまりません。
特に「おまえはそこにいたか?(Were You There?)」の心の底から絞り出るような歌声は、これを聴く者をその敬虔な世界へと必ず導いてくれることでしょう。バーバラ・ヘンドリックスによって歌われる音楽はとても静かですが、このソプラノからは熱い思いが如実に伝わってきます。これこそが「黒人霊歌」なのです。