ひとつ起こった出来事に対して何重もの仮説を構築するのが本格ミステリの大きな喜びのひとつなら、これはもう垂涎ものです。具体的な数は明かせませんが、とにかく事件パートのテキストが進むたびに解釈・推理・仮説の出てくること出てくること!七つ目の仮説あたりから、目眩を起こしそうになりました。しかもどの仮説も論理的整合性は十分保っています。この筆の熱さ、遊び心…執念というか、鬼気迫る情熱が本からあふれて止まりません。私も「『たま』は猫だよな、いや…もしかして…でもこの章の描写は…?」と、推理合戦に参加しそうになりましたが、とてもじゃないですが作中の仮説に迫れるほどのロジックは構成できませんでした。お見事!もし…この文を読んでいるあなたがミステリ・マニアなら、この作品の更にあなたなりのもう一つの矛盾しない『仮説』を生み出してみてはいかがでしょうか。ミステリ・マニアならなんだってできます!できるはずさ!…私は最初の一人称人物が冒頭で雨に濡れて着替える際の描写で、「着替える際にこのやりとりがあるということは、この人、女性なんじゃないか?」と思ったりしました。 ミステリー・アリーナ (ミステリー・リーグ) 関連情報
たしかに荒唐無稽なオチではあるが、このアイデアをふくらませて1本の娯楽作品に仕上げた作者の力量と熱意は評価に値すると思う。amazonのレビューを見ていておもしろいと感じたのは、最初に発売された『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』のときは肯定派と否定派が拮抗していたのに、文庫改訂版の『最後のトリック』では圧倒的に否定派のほうが多くなっていること。文庫化にあたってタイトルを変え、帯やPOPなどで結末への期待をあおったことにより、その失望感が反動として現れたのではないだろうか。私はそこまでガッカリしたわけではないけれど、上げられたハードルを超えるほどの驚きは残念ながら感じられなかった。しかし作品としてはわりと好きだ。 最後のトリック (河出文庫) 関連情報