ブーリン家の姉妹 コレクターズ・エディション [DVD]
この作品のトレーラーを見て、一体アンはどんな行動に出て王に取り入るのかと思っていたら、彼女自身に権力欲があったというより、たまたまアンが美しいだけでなく頭も良かったため父親の策略で王に差し出されることになるのである。
不敵な笑みを浮かべても気品と知性がにじみ出ているナタリー・ポートマンの雰囲気のせいもあるかもしれませんが、アンは多少の野心はあったかもしれないけどそれよりも父親に褒められたい・期待に応えたい・一族の出世に役に立たねば、という長女的な優等生気質や責任感のほうが強かっただけ、という印象を私は受けました。
アンもメアリーも、そして王妃でさえも、この時代の女性は男性もしくは彼女たちの所属する何かの目的達成―つまり父の出世や家名を守るため、世継ぎを産むための道具にしかすぎず、その状況でそれぞれがそれぞれの立場で懸命に生きているだけなのです。
それにしてもコロコロと気が変わり人の意見に簡単に左右されるヘンリー8世と、自分の娘を物のように扱うアンとメアリーの父親がとにかくひどい。こんな時代に生まれていなくて本当に良かった。
しかし、何があっても純粋で心優しいメアリーの姿に救われます。そしてそれを演じるスカーレット・ヨハンソンのイノセントな表情がとても美しいです。いつも小悪魔的な役が多いので、はじめアン役が彼女で、メアリーをナタリー・ポートマンが演じるのだと思ってました。そこはさすが女優です。
自信の能力と欲が裏目に出てしまったアンも、田舎で平凡な幸せを手にしたメアリーも、どちらにも勝ち負けなんてないと思いました。
ブーリン家の姉妹 (上) (集英社文庫)
全体の半分ぐらいまで読んだところで映画を見てきました。原作では、男性陣はともかく、姉妹の母親の態度が冷たすぎて、映画版の方が救いがありました。メアリー自身もアンの失敗を願うようなところがあって、特に上巻では、そんなに性格が良いようにも見えません。ただ、下巻に入って、現代の私から見ると唯一の普通の人と言ってもよい、メアリーの2番目の夫になる人が出てくると、だいぶ読みやすくなりました。
決してヘンリー8世を擁護するつもりではないのですが、彼が外国へ出征する際に全権を委任していった王妃は、6人のうち、スペインのイザベル女王の娘である1番目のキャサリン・オブ・アラゴンと、身分はそれほど高くはなかったものの賢妃として名高い6番目のキャサリン・パーの2人だけだったそうです。意外と、人を見る目はあったのかもしれません。ちなみに、キャサリン・パーのおかげで、エリザベスも教育を受け、女王になることができました。
愛憎の王冠 (上) ブーリン家の姉妹2 (ブーリン家の姉妹) (集英社文庫)
「ブーリン家の姉妹」を読んだ後にすぐ読みました。
イングランドの黄金期を築いたエリザベス女王が即位する前。
ブラッティーメアリーと呼ばれたメアリー女王が即位し、エリザベスに継承権を譲るまでのお話です。
もともとメアリーはヘンリーの最初の妻キャサリン・オブ・アラゴンの娘ですから正式な嫡子です。
しかし、離婚と言う形でアン・ブーリンに女王の座を奪われたキャサリン。
その子供メアリーも自然と嫡子から庶子へと扱いは一変します。
ところがアンが処刑され、嫡子の立場だった娘のエリザベスもまたメアリーと同じ道をたどるのです。
そんな二人が異母姉妹として幼少期をともにし、お互いに抱いていた愛情・同情・蔑み・憎悪。
様々な思いが、成長した二人の前に王位継承と言う運命が絡むことで露見し、加速していきます。
しかし、お話の主人公はこの二人のどちらでもなく「ハンナ」というユダヤ人の少女です。
その時代はキリスト教が権力を握り、ユダヤ教徒は異端として迫害されていた時代。
そんな命の危険を常に感じながら女を捨てて生き抜いてきたハンナが、
彼女の初恋でもあるロバート・ダドリーに持って生まれた能力を見初められ、宮廷へ召し上げられます。
そして二人の女王、メアリーとエリザベスとの間を行き来しながら、二人を愛し、二人の運命に関わって行きます。
この物語はハンナ自身の成長や、女としてのアイデンティティーを確立していくお話でもあり、
彼女の教科書のように二人の女王が女としての道をどう選び、女王としてどう決断していくのかが描かれています。
彼女たちには女王と言う抗えない運命が、そしてハンナにはユダヤ人と言う変えられない運命が立ちはだかります。
比較的私たちの感覚に近いハンナが客観的に女王たちや宮廷を見ているので、
読者はハンナの目を通して物語に入り込んだ気分になります。
ハンナも宮廷初心者ですから、宮廷の風習や宗教思想に明るくなくても物語に入り込みやすいと思います。
ただ「ブーリン家の姉妹」を読んだ流れでこの本を読むとより物語に厚みが出ると思います。
最後は、ハンナが女として愛に目覚め、愛する人とともに生きる選択をします。
とてもキレイな終わり方なので男が描く女性像を押し付けているだけでは?と思う方もいるかもしれませんが、
一番自立した女として生きたいと思い、一番葛藤していたのはハンナ自身です。
しかし最後には愛を選んだ。天晴れだと思います。
権力も富も手に入れて、自立した女性の象徴でもある女王の愛と、
貧しくユダヤ人と言う運命で縛られながらも、誰よりも自立した女性を夢見るハンナの愛。
この愛の行方に目が離せません!
悪しき遺産 (上) ブーリン家の姉妹4 (ブーリン家の姉妹) (集英社文庫)
ヘンリー8世の末期、4番目の妻アン・オブ・グレーヴと5番目の妻キャサリン・ハワードの時代です。
第一作「ブーリン家の姉妹」で書かれた物語は、イギリス史の中でも余りに有名な話ですが、この第四作に書かれていることは、4番目の妻が離婚され、5番目の妻が処刑されたことくらいしか知りません。
この二人の王妃に「ブーリン家の姉妹」でも登場した女官ジェーン・ブーリンを交えて、3人の女性の目を通して、ヘンリー8世の治世の混乱ぶりと取り巻き連中の陰謀術策が語られます。
作者は、史実に基づいて人物像を描いたと語っていますが、この時代の知識に乏しい私には判断のしようがありませんが、少なくとも3人の時代に翻弄された女性たちへの作者の愛情が感じられます。
専制君主の時代にあっては、その君主自身の異常な猜疑心は、使える者たちを怯えさせるか、もしくはそれを利用してのし上がろうとするかでしょう。
男たちの勝手な思惑が、3人の女性を穏やかな暮らしから引き離し、混乱の渦中に放り込みます。その中で懸命に生きながらも、その流れに抗しきれなかった彼女らは時代の被害者でしょう。
少なくとも、そうした悲劇性が強く伝わってくる作品であることは、間違いありません。