ジェラール・スゼー:フランス歌曲集
学生時代に聴いたスゼーのコンサートで、イタリア・オペラでもなくドイツ・リートでもない歌唱芸術のジャンルがあることを改めて体験した時の感動は忘れられない。今回彼の幅広いレパートリーの中でも、とりわけ卓越した表現で独自の世界を創造しているフランス歌曲が4枚のCDにまとめられて、オランダ・デンマークの共同設立社ニュートン・クラシックスから廉価盤としてリリースされた。その殆どが近、現代フランスの作曲家が同時代の詩人の作品に曲を付けたもので、スゼーが最も得意とするエスプリに富んだ語り口の多彩さと微妙なニュアンスの表出を、全盛期の滑らかで官能的なバリトンの声に託しているのが聴き所だ。
とりわけプーランクやラヴェル、デュパルクの作品はいずれもテクニック的に高度な歌唱技術が要求される難曲だが、それ以上に彼がこのCDで披露している原詩に対する非凡な感性と曲想の雰囲気づくりは秀逸。伴奏は総てダルトン・ボールドウィンで、彼はアメリカ生まれだがパリで勉強した、スゼーにとっては贔屓のピアニストだった。尚ラヴェルの『マダガスカル先住民の歌』だけはピアノの他に管弦楽のアンサンブルが付いている。
このセットは1960年から68年にかけてのステレオ録音のライセンス・リイシューになり、ライナー・ノートには歌詞が掲載されていないが、このCDに含まれる総てのフランス語の歌詞をwww.NEWTONCLASSICS.COMのサイトでPDFファイルによってダウン・ロードできる。