コンクールでお会いしましょう―名演に飽きた時代の原点 (中公文庫)
時代によってピアノ演奏に求められるものが変遷していきます。
リストやショパンの時代、他人の曲でも自己流に弾くことが求められていました。
アレンジすることで、人々は熱狂した。
ところが録音技術が発達すると、即興は原曲を間違って弾くことと考えられるようになり、
ピアニストは、正確に弾く技術を求められるようになる。
そして現代はプラスα。映画になりそうなその人の人生ドラマが売れる切っ掛けになる。
そして作為的にルックスのいいピアニストを養成しようというビジネス企画すら起こる。
非常に読みやすく、中村さんが等身大で著名ピアニスト達を描くので
芸術家といった重苦しい雰囲気がありません。
両親が音楽家であったバレンボイムは「人間はみんなピアノが弾けるものだ」と信じて
子供時代を過ごしたとか。有名ピアニストなのにそう見えない風貌の写真も載せられていて、
読んで楽しい内容です。
ピアニストという蛮族がいる (中公文庫)
「世界のピアニストには三種類しかいない。ユダヤ人とホモと下手糞だ」と語ったホロヴィッツを皮切りに、中村紘子さんが古今東西のピアニストにまつわる逸話を披露する。また、そればかりでなく、バッハ一家のお家事情から、ピアノを習ってみた日本の浄瑠璃師、ピアニストが乗り移った霊媒師にまで言及し、これでもかこれでもかと読む者を楽しませてくれる。
これらの内容は、中村さんによる綿密なリサーチと、ご自身が見聞きしたことに裏付けされているから、読んでおもしろいだけでなく、ピアノや音楽についての知識も深まる。音楽オンチの私でも、この本に登場する音楽家の作品を聞いてみたいと思うようになった。
以前、ピアノを弾きながら料理をしている紘子さんをテレビで拝見して感嘆した覚えがあるが(ピアノと料理の腕前+ユーモアに)、文才にまで恵まれているとは。多才な方だと脱帽。
ショパン:名演集
中村氏の演奏はとてもストレートな音楽です。
強弱のつけかた、テンポの上げ下げが大胆で、ffの響かせ方は、
我々に曲の新たな感動を教えてくれます。
特にこれほどまでに優雅で躍動感のある幻想即興曲は聴いたことがありません。
チャイコフスキー : ラフマニノフ:ピアノ協奏曲
今は亡きロシアの巨匠スヴェトラーノフとの共演。ひと頃何かとロシアとの縁が深かった中村紘子の彼女らしさが凝縮された録音。チャイコフスキーでは録音会場の音響の性格もあってか、オケとの協奏の部分では残念ながらピアノがかき消される部分もあるがソロパートではいつものピアニズムが光る。感動するのはラフマニノフでの稀に見る美しさ。都会的な語り口と繊細の妙はまさに絶品と言える。ピアノとオケの存在感のバランスは対等。ダイアモンドダストの氷の屑が瞬時に結晶の固まりを形成したかと思うと次の瞬間パッと空気中にそのきらめきが放出されるような様は巨匠の大うつわの中で自由に泳ぐ中村の個性がいかんなく発揮された瞬間でもある。
中村紘子 プレイズ ショパン [DVD]
得意な曲を収録したとのことで、流石に良い出来になっていると思う。
それでもスケルツォ2番のような大難曲になると疑問に思う点も少々あるが、彼女のあくまで攻めに出ている姿勢に評価を与えたい。
その他の曲は、プロのピアニストなら十八番となる割と簡易な曲ばかりなので出来は良いと思う。
まあ、それだけ普段CDで聴いている世界的ピアニストが如何に凄いかが分かるというものである。
会場での録音のため、音が響き過ぎている点も少し気になる。