殺人鬼 (Hayakawa pocket mystery books (195))
緻密な構成、
物語の展開、
館の雰囲気、
トリックやアリバイの妙・・・。
全てが一級品だった。
ヴァン・ダインを目指した作者が、
日本独特の光景や伝統におとして再現させた一級品。
これを読まずして推理小説は語れない。
素晴らしい展開と全体を覆う雰囲気に脱帽である。
日本探偵小説全集〈5〉浜尾四郎集 (創元推理文庫)
著者の代表作「殺人鬼」は、身もふたも無いタイトルですが、いわくありげな金持ち一家を舞台にした連続殺人事件を描いており、今読んでもそこそこ面白く読めます。
時代も却ってこれくらい経ったほうが、古典と割り切って読むことが出来るので違和感もあまり無いと思います。
ただ、個人的な好みとしては、あまりに理屈が勝ちすぎる内容だったので、もう少し人間的なドラマが盛り込まれていたほうが楽しめたと思います。
名探偵二人に、推理小説マニアの令嬢も巻き込んだ推理合戦など、謎解きが好きな人は寄り楽しめるでしょう。
浜尾四郎全集〈2〉殺人鬼
本書収載の「殺人鬼」が日本のミステリ界に残した足跡は大きい。
執筆当時の事情があるが、昭和初期当時はこの様な堂々たる長編ミステリは少なかった。
そこに、たとえ翻訳臭くとも、たとえ「グリーン家」の換骨奪胎であろうとも、読み応えのある、しかも推理論理を備えた本格ミステリが登場したことには、大きな意義がある。
あのハヤカワ・ポケミスでたった三作のみ日本作家作品があり、その内のひとつが本書であるという事実は、当時監修役だった乱歩がいかに本作に衝撃を受けたかということを、如実に表している。
そして本作の内容は、それに相応しい風格のある本格ミステリである。
特に、解決部分の推理の根拠となる記述部分をいちいち記述してあるあたりは、まるでクロフツ「ホッグズバック」さながらだ。
そして、本書には「殺人鬼」以外にも著者の長編「鉄鎖殺人事件」、「博士邸の怪事件」、未完の「平家殺人事件」が収載されている。
「鉄鎖〜」は「殺人鬼」よりまとまっていて好きだという人も多い作品であり、ある意味著者の代表作といっても良い作品だ。
いずれも、昭和初期に書かれたとは思えない作品である。
もちろん今となっては古くさい雰囲気であろうが、その歴史的意義、何と言ってもこの土台の上に今のミステリがあることを、忘れてはいけない。
少々高価な本だが、廉価本セールで新刊が半額で手に入るチャンスもある。
私は本全集2巻をそれで手に入れた。
まだまだ入手する機会もあるので、ミステリ好きは手に入れてぜひ一度読んでほしい。
乱歩が評価した理由が分かるはずだ。