作・山田太一 主演・笠智衆 『今朝の秋』
80代の父が、余命の無い息子に「いずれは皆死ぬんだ、遅いか早いかのちがい。特別の事では無い」の台詞が、初めて見た時に強烈に胸に刺さりました。今回見直して、自分が年を取った分余計に身に染みた作品でした。出演されていた俳優の大方の方が亡くなられ、改めて素晴らしい役者の間合いを堪能させられました。それにしても笠智衆という役者は何なのだろう!!48歳であの「東京物語」の父を演じたその雰囲気のまま、実年齢の80歳の日常を淡々と演じている(呼吸をしている)。笠さんの所作のすべてが、日本のかつてあった男(大人の男)のすべてを表出しています。昨今の何かと若い者ぶる風潮の中、父と息子がきちんと会話のできる成熟した大人はいったいどこに行ってしまったのだろうか。お互いにヒステリーになりながら、誰にでもくる死をどんな顔で迎えるのでしょうか。折にふれて味わい直したい山田太一の作品中、私の大好きなベスト作品です。
好人好日 [VHS]
実在の高名な数学者をモデルにしたと言われる主人公を演ずる笠知衆の「浮世離れ」し「ひょうひょう」とした好人物に、先ず惹かれる。今日では幾ら「変人の学者」でも此処までの「御人好し」は居まい。笠知衆の最も得意とする人物像だ。良き時代の奈良の情景が懐かしいし、登場人物に悪人が居ない(泥棒も含め)のも当時の日本映画の定番。他の配役も、若き日の岩下志麻や貫禄充分の淡島千影等魅力的だ。只、改心する泥棒役の三木のり平は、やや見劣りする。周りの千両役者達に飲み込まれてしまったのだろうか。文化勲章強盗シーンがハイライトなのにもう少し笑わせて貰いたかった。