謝罪代行社(ハヤカワ・ミステリ1850) (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
ドイツ児童文学の分野で名を成している中堅作家ドヴェンカーが新たにミステリー分野に挑戦して大成功を収めた注目のドイツ推理作家協会賞受賞作です。日本で近年に読めるドイツの有名なエンターティメント作品としては世界最長のSF大連作「宇宙英雄ローダン・シリーズ」、「治療島」等の技巧派フィツェック、「深海のYrr」等のサスペンス作家シェッツィング、の3つがありますが、今年また新たに「犯罪」でブレイクしたシーラッハと並んで本書が紹介されたのは真に喜ばしい事だと思います。翻訳小説の紹介がほぼ英米一辺倒だった昔に比べ、最近は北欧ミステリーの台頭がきっかけになってワールドワイドに拡大している嬉しい状況をファンとして今後も楽しみに見守って行きたいと思います。
リストラによる失業や定職につけずにフラフラしている四人の若い男女達が集まり人生の再スタートを切ろうと考え、依頼人になり代わっての謝罪を商売にした「謝罪代行社」を立ち上げる。商売は思いの外順調に進み順風満帆かと思えたが、ある日依頼人の指定で出向いた場所で壁に磔にされた女性の死体を発見し、忽ち前途に暗雲が漂い出すのだった。
本書の第一部で描かれる四人の男女、クリス、タマラ、ヴォルフ、フラウケのそれぞれに一風変わった人間性が紹介される青春小説風のエピソードにはどれも良い味があってとても面白く読みました。この苦しくても切羽詰っていない楽天的な雰囲気がいたく気に入りましたので、次の局面から暗い出来事が連続して起こり全員が殺伐とした空気に包まれるのが非常に残念でしたが、それでも全体的に暗澹たるドラマの割には本当の意味での暗く絶望的な悲劇と感じさせない所が著者の本質的な性格の美点だと思います。ミステリーとしては視点を変え多数の正体不明の人物を登場させる凝った構成でややこしくしていますが、私的には迷わずに十分に物語を追う事が出来て複雑怪奇な真相にも完全に納得しました。2点だけ欲を言えば、主題の「謝罪代行社」の奇妙な仕事を物語にもう少し上手く絡める事が出来なかったか、物語の語り手の正体に一ひねりを加えたらもっと面白くなったかも知れない、というのがやや心残りです。他に感じたのは、こんなにも怪しい状況なのに死体が見つからないという理由だけであっさり捜査を打ち切るあまりにも淡白過ぎる警察官は現実にはあり得ないと思いますが、著者があえてストーリーを強引にそういう流れに持って行った理由は、きっと闇の世界で暗躍する犯罪者や残虐な殺人者らの非道な悪人達を単純に法の裁きに委ねたくなかったからだろうと私には思えます。悪しき過去からの殺人連鎖と呼んでいい本当に数え切れない程の死者を出したこの物語が終わった後で「謝罪代行社」の生き残りの若者たちはそのままでは職業を存続出来ないとは思いますが、きっと彼らはこの過酷な試練のショックをも乗り越えてまた別の何かを思いつき逞しく生きていくのではないかと未来に一抹の希望を抱かせてくれます。
あとがきによれば本書の後に書かれた作品の筋書は5人の少女が活躍するサイコ・サスペンスだとの事で、また若者たちの人生模様や生き方にこだわる著者の特質が存分に活かされている事と期待が持てる次回作も早く読めます様にと願います。
リストラによる失業や定職につけずにフラフラしている四人の若い男女達が集まり人生の再スタートを切ろうと考え、依頼人になり代わっての謝罪を商売にした「謝罪代行社」を立ち上げる。商売は思いの外順調に進み順風満帆かと思えたが、ある日依頼人の指定で出向いた場所で壁に磔にされた女性の死体を発見し、忽ち前途に暗雲が漂い出すのだった。
本書の第一部で描かれる四人の男女、クリス、タマラ、ヴォルフ、フラウケのそれぞれに一風変わった人間性が紹介される青春小説風のエピソードにはどれも良い味があってとても面白く読みました。この苦しくても切羽詰っていない楽天的な雰囲気がいたく気に入りましたので、次の局面から暗い出来事が連続して起こり全員が殺伐とした空気に包まれるのが非常に残念でしたが、それでも全体的に暗澹たるドラマの割には本当の意味での暗く絶望的な悲劇と感じさせない所が著者の本質的な性格の美点だと思います。ミステリーとしては視点を変え多数の正体不明の人物を登場させる凝った構成でややこしくしていますが、私的には迷わずに十分に物語を追う事が出来て複雑怪奇な真相にも完全に納得しました。2点だけ欲を言えば、主題の「謝罪代行社」の奇妙な仕事を物語にもう少し上手く絡める事が出来なかったか、物語の語り手の正体に一ひねりを加えたらもっと面白くなったかも知れない、というのがやや心残りです。他に感じたのは、こんなにも怪しい状況なのに死体が見つからないという理由だけであっさり捜査を打ち切るあまりにも淡白過ぎる警察官は現実にはあり得ないと思いますが、著者があえてストーリーを強引にそういう流れに持って行った理由は、きっと闇の世界で暗躍する犯罪者や残虐な殺人者らの非道な悪人達を単純に法の裁きに委ねたくなかったからだろうと私には思えます。悪しき過去からの殺人連鎖と呼んでいい本当に数え切れない程の死者を出したこの物語が終わった後で「謝罪代行社」の生き残りの若者たちはそのままでは職業を存続出来ないとは思いますが、きっと彼らはこの過酷な試練のショックをも乗り越えてまた別の何かを思いつき逞しく生きていくのではないかと未来に一抹の希望を抱かせてくれます。
あとがきによれば本書の後に書かれた作品の筋書は5人の少女が活躍するサイコ・サスペンスだとの事で、また若者たちの人生模様や生き方にこだわる著者の特質が存分に活かされている事と期待が持てる次回作も早く読めます様にと願います。
謝罪代行社 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
最近のハヤカワの傾向として青春小説的なミステリー・犯罪小説
というのがあると思うのですが、この本はまさにそれで、ベルリン
の若者の日々と事件という二つの面を持つ小説です。
ベルリンの町の風景と今の20代の青年達の姿の描き方に生々しさ
があって読ませます。
しかしそこへ降ってわいたような災難が惨すぎる。青春小説部分
が何の伏線にもなっていない無関係な話です。エラリークイーンは
「ミステリーの中の事件は殺人事件でないと読者を引っ張って行
くことができない」と書いていますが、読者をつなぎ止めるテクニッ
クとして殺人を使い続けようと思って、より刺激を強く、事件の惨
劇度をエスカレートして行ったのだろうか、そんなことを思いまし
た。本当は惨劇が書きたいのだけど方便としてミステリー仕立てに
したとも考えられます。
結局犯人の動機などがあいまいなままなので、何か解決しない感
じを残したまま終わってしまい、残虐な描写の印象だけが残るとい
うような感想です。
結局作家自身が世間的にはタブーとされる自分の描いてみたい物
を書いてしまったのでしょうか。ミステリーやハードボイルドでは
なくピカレスクとか犯罪小説のジャンルの本だと思います。
ボリス・ビアンのような読後感のさわやかさには欠けます。暴力の
対象や破壊の方向が単に変態趣味的だからではないでしょうか。
読後感の悪さや非条理な結末を楽しめる方向け。
というのがあると思うのですが、この本はまさにそれで、ベルリン
の若者の日々と事件という二つの面を持つ小説です。
ベルリンの町の風景と今の20代の青年達の姿の描き方に生々しさ
があって読ませます。
しかしそこへ降ってわいたような災難が惨すぎる。青春小説部分
が何の伏線にもなっていない無関係な話です。エラリークイーンは
「ミステリーの中の事件は殺人事件でないと読者を引っ張って行
くことができない」と書いていますが、読者をつなぎ止めるテクニッ
クとして殺人を使い続けようと思って、より刺激を強く、事件の惨
劇度をエスカレートして行ったのだろうか、そんなことを思いまし
た。本当は惨劇が書きたいのだけど方便としてミステリー仕立てに
したとも考えられます。
結局犯人の動機などがあいまいなままなので、何か解決しない感
じを残したまま終わってしまい、残虐な描写の印象だけが残るとい
うような感想です。
結局作家自身が世間的にはタブーとされる自分の描いてみたい物
を書いてしまったのでしょうか。ミステリーやハードボイルドでは
なくピカレスクとか犯罪小説のジャンルの本だと思います。
ボリス・ビアンのような読後感のさわやかさには欠けます。暴力の
対象や破壊の方向が単に変態趣味的だからではないでしょうか。
読後感の悪さや非条理な結末を楽しめる方向け。