たったひとつの冴えたやりかた (ハヤカワ文庫SF)
新しい版では、片山若子氏の表紙イラストになり,挿し絵もありません。
以下のレビューは、旧版に基づくものです。
ご了承ください。
SFというものにあまり馴染みのない方へ。
あなたがまず目にするのは、星の海に浮かぶ船、まっすぐな眼差しの女の子。
川原由美子の描く表紙イラストです。
本を開き頁をめくれば、デネブ大学の図書館での微笑ましいシーン。
そして表題作の第一話「たったひとつの冴えたやりかた」が始まります。
「リフト」、「超C通信」、「GO型太陽」・・・・・・。いかにもSFっぽい用語が、しかも説明なしにでてきます。
でも、川原由美子の挿絵と、何より元気いっぱいの主人公、コーティがあなたを引っ張ってくれるはず。
気がつけば、見たこともない果てしない宇宙が目に浮かぶようになっています。
読み終えた方へ。
第二話、第三話の印象はどうでしたか?
第一話の衝撃で、もしかしたら印象に残っていないかもしれません。
私もそうでした。初読の際は、活字を目で追ってはいましたが、内容は全く頭に残りませんでした。
ですが、ティプトリーの凄みはこの中編集の随所に潜んでいます。
また、この本を手に取り、じっくりと読み込んでみたとき、きっと読み取れると思います。
いつの日か、ティプトリー自身のように、自分の「たったひとつの冴えたやりかた」を選ばなければならなくなるのでしょうね。
観用少女 3 (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)
「完全版」第三巻。文庫版を持ってるのだが、先日一巻が読み過ぎで破損したのがきっかけで、この「完全版」全三巻を手に入れた。
三巻収録作品の内、文庫版になかったのは「ムーンライト・シャドウ」「オーロラ姫」「神様の盃」「夜来香」「御喋りな墓標」「冬の宮殿」の六つ。
うち四つは分かりやすくて面白かったけど、最後の二つは話が入り組んでてよう分からんかった。
これからじっくり時間をかけて読んでけば、「あ〜なるほど!」と訳が分かってお気に入りになるかしら。
ともかくも絵がすっごく綺麗。雑誌掲載時はカラーだった(と思われる)ページが白黒なのが実に惜しい。かくなる上は愛蔵版に手を出すべきか…う〜ん、でもお金が…。
まあそれはともかく、買って良かったです。「プランツのお話が全部読めるなら白黒でもOK」という方はこの「完全版」を、「こんだけ絵が綺麗なんだからカラーページはカラーで見たい!!」とおっしゃる方は「愛蔵版」を手に入れた方がよろしいかと。
眠れぬ夜の奇妙な話コミックス ななめの音楽Ⅱ (ソノラマコミックス)
1、2巻両方読んでの印象です。
とても、良かった。
飛行機モノです。
時代設定はやや未来と思われます。非ジェットの航空機レースを軸に、ちょっとばかり夢見がちなこゆるとミステリアスでガチな飛行機少女・光子のお話。キーとなるのはタイトルの「ななめの音楽」。
『観用少女』『前略・ミルクハウス』での川原由美子の印象とは少し異なる今回の『ななめの音楽』。佐藤道明テイストの航空機、世界が展開し、短編で垣間見せていたハードな航空ロマンの世界へどっぷりと読者を誘います。全ページコマ外は黒ベタ。コマはすべて横幅フルサイズの横長で一ページを四つに等分しています。漫符や集中線の類の漫画的なエフェクトはありません。フキダシも素っ気ない角丸長方形。
映画のスクリーンのような漫画です。
1巻では光子に巻き込まれていくこゆるが描かれますが、2巻では航空機レースを通じた光子の「空」とその空に見せられたこゆるが描かれます。
派手に盛り上げるタイプの漫画ではないので「衝撃のラストが!」という煽りも入れづらいのですが、読み終わる頃にはある種の驚きを覚えることでしょう。
『ダークブルー』のような、ヨーロッパの空気の薫る映像で映画化されれば良いのに、と思いました。
TUKIKAGEカフェ① (朝日コミックス)
最近またコンスタントに作品を描いてくれるようになって、「観用少女」の後もじーっと待ってた甲斐があったというものですが、ここ最近は「新しいスタイル」に挑戦しているみたいで、前作の「ななめの音楽」が映画の絵コンテ風の形式だったのに対して、今作は「絵本」というか「挿絵入り詩集」というか、いわゆるマンガの形式(コマ割り・フキダシ)というものにとらわれずに、ある意味奔放に、でも優雅に、なんともいえずしっとりとした画面を作っています。
少年マンガばかり読んでた人は少女マンガのコマ割りがうまく理解できず、どういう順番でコマを読み進んでいいのかわからなくなる、とか言いますが(まぁ稀に本当にメチャクチャなコマ割りをする作家もいますが)、この作品はコマ割りすらも省かれていたりするので、法則が掴めないうちはどう読んでいいのか戸惑うこともあると思います。
でも何ででしょうね、戸惑うことはあるけど、不快に感じません。
マンガのテンプレートに当てはめるとメチャクチャの部類に入りそうですけど、この作品の”絵”と”文字”の構成は美術作品では時々見かけるスタイルなんですね。
急いで次の展開を追いかける必要もない、のんびりとゆっくりと自分のペースで読んでいくと、作品内の世界のゆっくりとしたペースにうまく同調するみたいです。
1日に1話だけ、寝る前にリラックスできる音楽など聴きながら、1ページずつじっくりと読んで、「じゃあ続きは明日。」と眠りにつくと、ちょっと不思議な夢が見られそうな気になります。
作品世界は観用少女とよく似た「国籍不明の、おそらく未来の、それでいてアンティークな、不思議が不思議のまま日常に溶け込んでいる場所」です。言葉で説明するのはものすごく難しいですね(笑)。