さよなら妖精 (創元推理文庫)
1991年4月。日常を送っていた高校生たちが違う日常を過ごす少女と出会うことによって、日常の境界が曖昧模糊となっていくひと時を描いた物語。
当初この作家氏の評価も出版物も何も知らないでタイトルへの好奇心のみでこの本を手に取った(笠井潔氏のバイバイエンジェルとのタイトルの相似ゆえにと思われる)。読み始めると一切の無駄な描写を省いた簡易的かつ古典とも思える美しい文体を意識した文章に目を奪われた。そして次第に物語の登場人物たちのいい意味での没個性にはまっていった。
自分のくだらない文章でこの物語を細かく評価する気はありません。ただ、この物語をまったくの無関係な第三者に推薦する根拠としてどうしてもいたいことが一つだけあります。見知らぬ国で起きている悲劇への無関心、当然の中に隠れている不思議、思春期に訪れる自分への可能性の挑戦。全てまとめたそれらは、自分たちの歩んできた軌跡そのものではないのか、ということです。この物語の続きを歩んでいく決意を固めた人間、放棄した人間も等しくこの物語を読んで、今の自分を愛おしく思ってほしいです。
私たちは生きているからです。そんなことを思わせてくれた本でした。
氷菓 (角川文庫)
何事にも積極的にかかわろうとしない「省エネ人間」の奉太郎は、なりゆき古典部に入部する。
そこで彼は、日常に潜むちょっとした謎を、なりゆきに任せて推理していく…
可もなく不可もなく。
ぼーっと読み進められるお話でした。
推理と言っても、本当に日常のちょっとした不思議を「どういうことだろう」と暇つぶしに考えてみる、といったものがほとんど。
でも逆にそれが味になっていて、嫌いじゃなかったです。
ただメインになる「氷菓」の謎は、もうちょっとすっきりさせてほしかったような…
高校一年生にしては、登場人物がものすごく大人びているのも、ちょっとだけ気になりました。
氷菓 限定版 第1巻 [Blu-ray]
アニメは全部見ました。序盤から中盤の話もよかったですが、終盤の短編の連打にやられた感じです。
最終回を見て買うことにしました。
作品の良さに関してですが、アニメは丁寧ですね。作画云々は言うに及ばず全体を考えて最初からキャラが配置されていて好感が持てます。
話ももちろん楽しめました。確かにミステリーとして見るとその謎・解決方法なんか微妙なんじゃないかと言うのは確かにあるが、それは見方のずれかなとも思いました。
かく言う自分も氷菓のとどめのネタにえええと突っ込みを入れそうになった口だったりね。途中の話のネタなんかのほうが、へーって思うことも多く、むしろ最初の氷菓のネタそのものが突っ込まれやすいのが欠点かもしれませんね。
しかし、情報を部分部分を集めてその場その場での最善手、最善の考え的を明示されるようなミステリーの作品にあまり触れてなかったせいもあるかもしれませんが、その推理の過程は凄く楽しめました。
あと、千反田さんと里志くんという2人の比較対象が難しいある意味濃いキャラ達をどう思うかで氷菓が結構変わるような気がします。
BDを手に入れてですが他と仕様が違うなと思ったのは(うちの再生機のせいかもしれませんが)、本編以外のスペシャル特典が本編に続いて連続で再生される点。
ロケだの録音風景だのですが、録音風景なんかは特に音楽家すげーと思わずにはいられなかった等の感想もありますが、わざわざ操作しなくていいのは正直うれしかったです。まあこれは、作品によるかもしれませんが、穏やかな流れに比較的静かなロケ風景などの接続はありだと思いました。
付属CDもまあ楽しめますが、異世界のアナザーシナリオ展開や中の人のラジオなどは好みが分かれるのでしょう。女郎蜘蛛の後話は笑いました。音楽は短いですがよいです。
あと1巻には3巻まで入るBOX付き、もちろん4巻には6巻まで入るBOXが付いてきました。7巻には何巻まで入る箱なんでしょう、私気になり(ry
11巻までマラソンか〜、値段に関してはどうしても頭痛いですね。
ついでに愚者やクドの長編を2話ずつ収録一カ月待ちは半端なく待ち遠しいっす。
儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)
腰巻きには「あらゆる予想は、最後の最後で覆される。ラスト1行の衝撃にこだわり抜いた、暗黒連作ミステリ」とあり、ランキング本などでもそのように解説されていますが、率直に言ってそうではありません。こうした惹句どおりの衝撃を求めるなら、佐野洋の短編集の方が遙かに驚きに満ちています。「あらゆる予想は、最後の最後で覆される」という惹句は、この短編集の持つ凄みをきちんと表していません。収録された5編には、確かに「ラスト1行の衝撃」がありますが、それは読者の予想を覆す、とかではなく、見る気もなかったグロテスクな美術品を、気がついたら凝視していたような、そんな衝撃です。
5編の短編は、いずれも基本的に若い女性の一人称で語られます。女性は、裕福な家庭に暮らす令嬢、あるいはそうした家庭に使える使用人です。そして、明にあるいは暗に、殺人が関わってきます。これらの殺人にも共通点があります。殺人とは、いうまでもなく人が人を殺す行為ですが「儚い羊たちの祝宴」の5編で描かれる人を殺すという行為には、悪意や恨み、後悔といった感情が一切伴っていません。その歪みっぷりの怖さが、最後の1行で最大化される巧さが、5編に共通しています。高所恐怖は、上空1万メートルよりも地上数十メートルの方が大きかったりしますが、人間性の歪みとそこに起因する怖さというものも、まったく理解不能な行動よりも、常識的な感情からわずかに、しかし画然とずれてしまっている心理をつきつけられる方が衝撃的だということでしょう。