ヘヴン
主人公と百瀬(苛める側の一員)のやり取りが印象的だった。
人間のもっている主観は人それぞれ違うものだ。だからお互いを本当に知ろうと思ってもそれはできないのかもしれない。
主人公の言い分が百瀬に通じなかったのもそのせいだろう。
百瀬と主人公はわかりあえなかった。
一度はわかりあえそうだった主人公とコジマも本当はわかりあえなかった、と思う。
だから悲しい、というわけではない。人間とは、そういうものだ。
そう感じた。
文明の子
一度目読んだ感想は、ピアニストの話、出来損ないのヒーロー、ネズミの話など短編としてよかった、という印象。
全体を通しての感想が、まとまったものとして自分のなかにできるまでに、時間がかかった。
最近ようやくわかってきた気がする。
「文明の子」「文明」というテーマ。
「光と風」や「少子化問題」など他の方がレビューに書いていた内容も参考になった。
でもまだ上手く感想を述べる自信がない。
しかし、少なくとも太田さんの文章を、下手だとはおもわない。
相性の問題もあるとおもうが、売れている小説家でも、下手だと自分がおもう小説家はいる。
むしろ、上手い部類だとおもう。
雑誌の連載をこなしているだけあって、読者にどうすれば伝わるだろう、と努力されている姿が浮かぶ。
本業ではないのに、これだけ書けるということは、評価できる。
最近、藤子・F・不二雄氏の短編集を読んでいるが、それと同じような
匂いをこの小説に感じる。
世の悲劇と、そのことに対する冷静さ・明るく生きようとする心 のバランス とでも言おうか
軽快に描いているが、テーマは重いというところも類似している
軽々しく、評価できない1冊だ。
星5つにしたい、けど、まだそこまで理解できていない。
太田さん、こんな感じです。いつも太田さんに元気もらってますよ!
ヘヴン (講談社文庫)
斜視。日々見つけられる、気まぐれな「苛めの新しいたね」。「どれだけ考えてもけっきょくどうすればいいのかはわからな」い「なにをしても間違っているような気が」する中学生の日常。身近に同じような苦しみを抱える人がいるので、読んでいて胸が痛んだ。教室の中での苦しみがこんなふうにリアルに書かれていることに強い痛みを感じ、作者の持つ創造力の強度に圧倒される。
コジマは、ドストエフスキー文学に出てくるユロージヴァイ(聖なる白痴とも言うべき存在、魂とは逆に肉体は不潔なことが多い)みたいな存在で、ちょっと図式的に過ぎる人物だと思ったけれど、「僕」と美術館に「ヘヴン」という絵を見に行って、その絵を見ないで帰る夏の一日は、悲しい作品の中で、キラキラしている大切な場面だ。もちろん、ラスト前の雨の公園の場面は圧巻。
しかし、最もすごいのは160頁から180頁までの百瀬との対話だろう。ドストエフスキー風の悪魔的な人物のように描かれる百瀬って、実は今の中学生の多くの発想そのものを語っている。普通は言語化されないが、苛める側のあまりにもリアルな実感。もう、子どもたちはここまで追いつめられている。全ての苛められている中学生とその家族に読んでほしい場面だ。いや、文学を愛する全ての人に読んでほしい。
百瀬を造詣しただけでも、川上未映子は21世紀の文学の旗手だと思う。今後が最も楽しみな(最も怖い?)作家のひとり。
夢みる機械
作家としての川上未映子はよく分かりませんが、
これはとても聴きごたえのある、良いアルバムです。
歌声には芯の強さを感じます。
聞くたびに味が出てきます。
ケイティー・タンストールが好きな人は
これも好きになると思います。
『悲しみを撃つ手』が素晴らしいです。
小説もいいけど、アルバムをもっと出して欲しい。
すべて真夜中の恋人たち
主人公の冬子を静とすれば、美人で男に不自由せず、何でも自分で選択して前に進め、仕事(への姿勢)に最大価値をおく聖は動。彼女達の共通点は孤独で人から愛されず、また、愛してもいない東京で働く30代半ばの独身女性であること
恐らく彼女らと同年代の芥川賞作家・川上未映子の名前なしに出版されない小説でしょう
吉本ばななの父・吉本隆明の「第一級の作家はこの心の動きは俺だけにしかわからない或は俺しか体験したことがないと多くの読者に思わせる」という言葉を借りれば、☆3つが妥当だと思いますが
自分で自分の人生を選択してこれなかった、自宅で校閲者として働く孤独な冬子が、お酒の力さえも借りながら、ありったけのちから(勇気)で、仄かに自分の人生(恋愛であり、他者と関わること)を歩み出す姿に、一人でも多くの読者が希望を抱ければと願わせる切ない作品です