カルメン故郷に帰る [DVD]
頭の弱いカルメンが自分を奮い立たせるように歌うタイトルソング(黛敏郎作曲)と盲目の作曲家(佐野周二さん名演)や子どもたちが浅間の風景を謳う「そばの花咲く」(木下忠司作曲)が、すばらしい。故郷に錦を飾ろうとするカルメンも、貧しさに耐えながら曲を作り続ける作曲家も、一途な思いのままに生きる、また、そのようにしか生きられない存在。そんな人間の美しさと哀しさをコメディとして見事に表現したこの作品に、強い印象を加えています。
オープニングでは、撮影・照明・編集・助監督などがチーフだけでなく全員表示され、日本初のカラー映画、松竹映画三十周年記念という本作の重みを感じさせてくれます。
タルカス~クラシック meets ロック
コンサート当日、前から2列目で浴びた音が、今こうしてCDとなりました。音圧とか迫力はさすがに生のほうがすごいですが、逆に座席の位置によってよく聴きとれなかった音がクリアに収録されていて、これはこれですばらしい録音だと思います。住環境の許す限りで大音量で再生することをお勧めします。
雑誌の、難波弘之氏との対談で、吉松氏は「僕はオーケストラでプログレッシブ・ロックを演っているんだ」と発言していましたが、まさにこの「タルカス」は、「クラシックmeetsロック」というより、「ロックbyクラシックオーケストラ」というべき演奏です。コンサートでは1曲目に演奏された「アトム・ハーツ・クラブ」もそうですが、最近のクラシック畑の人には、ロックやブルーズのリズムやグルーヴを表現できる人が多くなったように感じます。クラシックだけでなくジャズやロックも聴いて育った世代なのでしょうね。20年前では絶対に不可能だったろう企画です。当日のコンサートでも、おそらく定期会員とおぼしき人たちが第1部終了後、怒って何十人か帰ってしまいましたが、ふだんクラシックのコンサートには来ないような方々も含めて、後半はおおいに盛り上がりました。(ちなみに実際の演奏は「アトム」→「アメリカ」→「BUGAKU」→「タルカス」の順でした)
この「タルカス」を気に入られた方はぜひ、吉松氏自身の他の曲を聴かれることをお勧めします。サキソフォン協奏曲の「サイバーバード」なんて、最高にカッコいいですし、交響曲は「タルカス」と通底するものがあります。ピアノによる「プレイアデス舞曲集」はイエスなどが好きな方には気に入っていただけると思います。
君も出世ができる [DVD]
「嫌われ松子の一生」を観た時、これは日本に於いて極めて稀なミュージカルの傑作だなと興奮した。それくらいミュージカル映画は、日本の風土には似合わない不毛なジャンルと言えるのだが、それでも、過去にこのジャンルに果敢に挑戦した意欲作がなかった訳ではなくて、例えば加藤泰の「真田風雲録」や岡本喜八の「ああ爆弾」らが挙げられるのだが、それらがかなり斬新で作家性の強い作品であったのに比べ、今作はハリウッドテイストの軽やかで心弾むようなコメディ・タッチを狙って作られている。
高度経済成長期でのモーレツサラリーマンのヴァイタリティと悲哀に、帰国子女とのラブコメディをミュージカル仕立てにしてしまったのがいかにも東宝らしい(笑)。ハデさや賑やかさは同時代に作られていたクレージーキャッツ映画に一歩譲るが、黛敏郎&谷川俊一郎コンビによるマンボ、ルンバから民謡までも盛り込んだ楽曲たちは楽しいし、中でも、雪村いずみや益田喜頓ら総勢100人近くの出演者、ダンサーが歌い踊る「アメリカでは」は、多少ゴタゴタするものの壮観で、かなり頑張っている。フランキー堺や高島忠夫が働くオフィスとか、浜美枝がママのナイトクラブとか、近未来のSF映画を思わせる村木忍のセットデザインが印象的。
フランキーがやけ酒を飲んでいると、何故か植木等が登場、「これが男の生きる道」を聴かせると、それがいつの間にかサラリーマン哀歌のモブ・シーンに変わっていったり、ラストの大団円が、いかにもサラリーマン的慎ましやかで時代を感じてしまうが、日本映画で恐らく初めて本格的ミュージカルに挑戦した意欲作、映画ファンなら観てソンはない。
スポーツ・マーチ・ベスト
スポーツをテーマにした行進曲集で、オリンピック・ファンファーレからTV番組用マーチ、慶応大学応援団コンバット・マーチにFIFAアンセムまで多彩な選曲が楽しめます…
陸海空自衛隊音楽隊の演奏はさすがに安定していてどれも立派な物ですが、一部の曲で録音マイクの位置が遠くてモヤッとした感じになっちゃった物や、編曲バージョンになっていて原曲より"軽く"なってしまった物があり好き嫌いが分かれそうです…11曲目「若い力」は編曲が功を奏したのか、伝統的なドイツ軍楽隊行進曲風になっていて新鮮でした。
前半、NHK&民放のスポーツ番組に使用された曲を聴いていると"プロレス""ナイター中継(基本的にジャイアンツ戦ばっかりでしたね…)""高校野球"などで繰り返し耳にしていたメロディが記憶に完全に刷り込まれている事に改めて驚きます…
1、2曲目「東京オリンピック」のファンファーレとマーチを聴いていて、遠い昔の感傷と高揚感が混ざったような不思議な感覚になり、突如、涙が溢れてきてしまいました…日本人のある年代層にとって「東京オリンピック」って特別な思い入れがあるように思えますが皆さんはいかがですか…
私は当時、東京都品川区に住んでおり、1964.10.10、真っ青な空に航空自衛隊ブルー・インパルス(機種はF-86Fセイバーでしたねぇ…)が描いた"五輪の輪"を見上げて子供ながら大変感動したのをはっきり覚えています…
黛敏郎:シンフォニック・ムード/バレエ音楽「舞楽」/曼荼羅交響曲/ルンバ・ラプソディ
黛敏郎の比較的初期の作品が収められた珍しいCDです。特にシンフォニック・ムードは演奏会で扱われたことはありますが、確かに録音がでたことはありませんでした。このシンフォニック・ムードは黛が21歳という年齢の作品に関わらず将来大シンフォニストとなるであろうことを予感をさせるものです。ともかく手馴れていて、巧いんです。どうすればオーケストラを鳴らすことができるかを物凄く良く心得ている。1950年の日本の状況を考えるとこれはとんでもないことです。
そして、このCDの圧巻は片山杜秀氏による解説です。堂々13頁(英文翻訳も含めると24頁)にわたる解説には、片山氏による黛論が展開されており、黛がその特性をどのように身に付けていったかを自在に語っています。片山氏にとっては、この時代の記述は自家薬籠中のものとなっておりその博覧強記と自然な語り口は、読者を瞬時にその時代に送り込むタイムマシーンとなっており、ただただ脱帽するしかありません。
このような超一流の評論家のライナーノートを前にしたら、自己の言語を持たない他人の借り物を単に頼りにするだけの世の三流評論家は筆を折り、口を閉ざすべきでしょう。
このCDには他に舞楽と曼荼羅交響曲そして最初期の管弦楽作品であるルンバ・ラプソディーが入っています。演奏はとても丁寧なもので、舞楽第二部の打楽器による独特の拍はその緊迫感において新たなものとなっています。鮮明な音質で輪郭がはっきりした素晴らしい演奏と録音です。ともかく、CDがその全体として質が高いのです。表紙の古賀春江画伯の「海」もいいし、CDジャッケトの内側の面のドイツ語で書かれた日本地図のデザインもいいんです。
丁寧に仕事をした人々の労作です。橋本国彦の作品集以来のきちっとした仕事です。正当な評価が下されるべき近年まれに見る見事なCD(作品)といってよいでしょう。