フリードリッヒ・グルダ・プレイズ・モーツァルト・ピアノ・コンチェルト [DVD]
弾き振りなのですから当然といえば当然ながら、グルダばかしが写し出されるのには食傷します。 また、協奏曲ならではの独奏者と指揮者との協演・競演が味わえないのにも物足らなさを感じました。
こんなにも表情豊かに、音を大切にしているグルダの演奏は、とても感動しました。ピアノ演奏をしながら指揮をしている姿は、本人自身が楽しんでいて、子供も楽しめます。子供をクラッシクファンにしたいなら、是非見せてあげてください。ある時は片手で、そしてまたある時は、とても微妙なマユの動き、目の表情、口の動き、使える物は全て使って指揮をしています。グルダ自信の表情も見ものですが、サインを受け取るオーケストラの団員の表情を見てもとても楽しい。音楽を身体全体で表現していて、又、身体全体で楽しんでいる姿は、とても純粋でCDではなくDVDとして購入する価値あります。
フリードリヒ・グルダ I LOVE MOZART, I LOVE BARBARA[DVD]
M1〜M5はグルダのピアノ・ソロ。くつろいだ雰囲気だけれども真剣な演奏による、モーツァルトへの愛の告白。M5はグルダの編曲で、素敵なピアノの小品に仕上がっている。
M5で舞台に登場したデナーラインはM6から演奏に加わる。グルダ作曲の美旋律で有名なM6は、M5とほとんど切れ目なしで演奏されることで盛り上がり、かつデナーラインのシンセサイザーの音が薄く被さって、グルダのピアノが殊のほか美しく響く。この曲のワン・オブ・ザ・ベストの演奏だと思う。
本作にグルダと他のプレイヤーの共演に時として感じる過剰さはない。デナーラインのオルガン&シンセがグルダのピアノのアタックを包み込むように作用するから。なかなか良い組み合わせだ。
11分を超すベニー・ゴルソンの曲M8では、オルガンの足ペダルでのベース・ソロが面白い。最後M10ではグルダが上機嫌で弾き語りの歌を披露。
このように90分超のプログラムの内容自体は満足できる。しかし、国内盤は輸入盤(リージョン0)パッケージに、日本語で印刷した紙カバーをつけただけで、日本語字幕・日本語解説書はついていない。輸入盤で十分。国内盤としてのパッケージ全体の質を考慮して、評価は辛目。
グルダの真実―クルト・ホーフマンとの対話
原著は1990年発行。対話と銘打たれているが、内容はグルダ(1930-2000)が自分のことを「縦横無尽、奔放に語る」という語り下ろし。おそらくはグルダへの数回、数年にわたってあちこちでおこなわれたインタビューをまとめたもの。著者のクルト・ホーフマンは放送局のディレクターという肩書を持つ1954年生まれの音楽ジャーナリスト。
さて、日本語に訳されたグルダの語りにあてられた“俺”という一人称。仮にもクラシック系の演奏家に“私”以外の一人称を使わせる訳文は、他にあまりお目にかかった記憶がない。が、読み進むにつれ、これが実によく「ハマっている」ことに驚かされる。
グルダの演奏というと、衝撃的と言われた最初のベートーヴェンのソナタ全曲録音からしてすでに、まずリズムありきで根源的であった。気迫に満ち、夾雑物がない。くっきりとした輪郭とモノクロームの世界へと引きこむような立体感が不思議と輝かしく、聴く者を圧倒する。そこには、あらゆることから自由(フリー)でありたいという焦燥感に満ちた魂が息づいている。本書での語りも彼の音楽そのままで、オフビートの力強さに満ちている。いままでずっと、この人は音楽それもクラシックの演奏であれほどに「語る」ことができるのに、なぜ異形扱いされながらもジャンルを超えてジャズやフリーミュージックへも手を出し、なおかつ言葉で自分を語ろうとしたのだろうと不思議でならなかった。だが、この本を読んで、なんとなく胸に落ちるものがあったように思う。たかが本を一冊読んだだけでわかったような気になるなよという、グルダ本人の声も聞こえてきそうだが。
ウィーンさらに戦後しばらくの音楽事情や、彼がレパートリーとする作品および作曲家への興味深い論評、ブレンデル(手厳しいコメントの連続!)やアルゲリッチ(グルダのほぼ唯一の弟子)やフルニエをはじめとする演奏家について言及するその口調のなんと皮肉で爽快なこと!
昨今は音楽媒体がCDからネットでの配信へと切り替わる可能性を見すえてか、ヒストリカルな録音をあらためてリリースということが一気に増えた。グルダの音源もしかり。当人が本書で「音盤リリースをキャンセルして手元のテープはどこかへ行ってしまった」と言及しているモーツァルトのソナタの音源が彼の死後に発見され、2006年にリリースされたことは記憶に新しい。これからでも彼の録音を聴いてファンになるという人も増えていくのではないか、いや、増えてくれることを期待したい。入念なディスコグラフィを巻末につけたこの本もそろそろ増補版を出していただきたいものだが、さすがにそれは無理な話なのだろうか。