赤穂浪士〈上〉 (新潮文庫)
予定通りに問題なく手に入れることができました。
表紙の絵は違いましたので、気にされる方は要注意です。
中身は大仏次郎の表現がまどろっこしい感じがしますが
問題については多角的に捕らえていて、大変に面白かったです。
天皇の世紀〈1〉 (文春文庫)
『鞍馬天狗』で知られる大佛次郎氏の代表作で、遺作となった作品。残念なことに未完であるが、おそらく、夏目漱石の『明暗』と並んで、その中絶が惜しまれているのではないだろうか。
内容を極めて簡単に書けば、幕末という時代を、天皇中心に描いている。ただ、なかなか手ごわい作品である。だいたい、幕末について歴史に多少でも興味があれば、本書に書かれていることの大筋は知っているだろう。ということは、さらに細部にかかわることなどを楽しめないと本書は、きわめて退屈極まりないものとなってしまうのである。それでも、いわゆる「歴史書」との差を分けるのは、著者の筆力。膨大な資料を巧みに利用するとともに、時代小説・大衆小説などを書いてきた経験を十二分に生かし、人物たちに生命を吹き込んでいる。
やや持ちあげすぎと思われるかも知れないが、『史記』や『歴史』(ヘロドトス)と同様「歴史文学」足り得ている作品であることは間違いない。自分以外の評価を引用するのは申し訳ないが、加藤周一氏が『日本文学史序説』のなかで、本書を「日本文学史上、これほどの規模と深さを兼ね備えるものは、おそらくは少ない」と書いている。それほどの傑作である。
猫のいる日々 (徳間文庫)
大仏次郎さんがどんな小説を書いた人だったのかも全く知らずに手に取った一冊。内容は猫にまつわるあれこれを綴ったエッセイと小説1篇と童話が4話の構成になっている。エッセイはとにかく猫が好きでたまらない、と言うよりは淡々と猫との生活を送っている様子が見て取れる感じ。ご本人より奥様の溺愛ぶりや飼い猫(と言っても居候もいたようだが)だけでなく、旅先の猫に興味を持っている辺りは本当の猫好きでしょう。猫の好きな人は猫かわいがりはしないもの。日に日に増えてゆく猫たちに時には腹を立て、書斎は入れないなどのルールもある。
象徴的なのはいつの世も動物をかまわず捨てていく人がいるということ。エッセイにも何度となく登場し、心底腹を立てているのが分かる。いつの世も同じか・・。たくさんの猫の世話や食事にほとほと嫌気がさしている様子も動物を飼っている身なら人事ではない。こちらは1匹でも大変だったのに、と思わずにはいられなかった。
童話は子供向けであるためやさしい言葉で心温まる雰囲気。言葉そのものも古きよき時代を感じさせ、とても新鮮。小説も猫の暖かさが時代の冷え切った様子とうまく対になっているのように見え、さすがだな~と思わせる。全体に短い話ばかりで気軽に読める。小刻みに読む物としておすすめ。