キャタピラー [DVD]
昨日、隣町の小さなホールで観た。
乱歩の「芋虫」を下敷きにした作品と聞いていたが、主題が大きく異なるものと思った。
感じた主題は、反戦メッセージでもなく、夫婦の歪んでいく愛でもなく、
キューブラ・ロスの「死の受容」だった。
この場合の「死」とは、夫の死ではなく、夫婦の関係性の死である。
第一段階 「否認」
あんなの久蔵さんじゃない! イヤ!と叫ぶ妻。
第二段階 「怒り」
勲章だけが拠り所の、動物のような夫の世話をする、やり場のない妻の静かな怒り。
第三段階 「取引」
妻は、夫に軍服を着せ、勲章をつけさせ、連れ歩く。
妻は、夫が外出を嫌がると、自分が勲章をつけ人前に現れる。
軍神さまとみなに拝まれ、妻は優越感を得ることで、妻は精神の安定を得る。
本来の「取引」とは異なるが、破滅していく生活を食い止めるための代償行為である。
第四段階 「抑うつ」
これは夫に現れる。
過去の悪行の記憶にさいなまれ、性的にも不能となり、錯乱状態に陥る。
妻はここではじめて、「芋虫」と夫を呼び、ヒステリックに笑い続ける。
勲章を、額縁にいれた夫の新聞記事をたたき落とす。
第五段階 「受容」
終戦を迎えても、夫が軍神ではなく、芋虫であると認め、
建前や大義名分としての夫婦の関係が死んだことを受入れた妻の生活は変わらない。
妻は再生を果たした。
夫は同じく事実を認め、不自由な体で池に身を投げ、水死する。
原作も本作もどちらも深い主題を抱えており、どちらも素晴らしい作品と思うが、
乱歩作品の耽美的、退廃的なイメージを求めて本作を見ると、やや物足りないだろう。
寺島しのぶが見事に表現した、死の受容過程をなぞると、別の感慨が浮かぶ作品である。
エンディングでは、元ちとせの強烈すぎる歌声が流れるが、
寺島しのぶの迫力は一歩もひけをとらない、すさまじいものだった。
ランニング・オン・エンプティ [DVD]
アムモは低予算ながら、胸に響く作品を送り出している。
本作も小田社長自らの原案によるものらしいが、若手の監督をどんどん輩出する姿勢は素晴らしい。
内容はフリーターの恋人同士の痴話げんかがもとで起こる「狂言誘拐」を描いたもので、後半はそこに
異母兄妹の要素なども絡んで来る。
彼氏役の小林且弥のいいかげんさが絶妙で、いい感じの「ふ抜けた」(誉めてます)出来になっている。
彼女役にして、本騒動の張本人であるみひろがまた素晴らしい。
「サイタマノラッパー」での好演が小田社長の目に留まったということだが、男性目線からすれば
たまらない魅力を醸し出していた。同性から観ると、大嫌いなタイプだと思うけれど(笑)。
舞台挨拶で「男たちを手玉に取る小悪魔」と言っていたが、手玉に「取る」のではなく、いつのまにか
「取られている」のだ。この演技力は一般映画でも十分通用するはずだ。
川崎の工業地帯でロケされているが、低予算かつ1週間で撮られたとは思えない「質感」もある。
これはブレランのような近未来的風景と、狭ーいアパートの一室を対比させている「絵」の完成度もあるだろう。
特別出演の大杉漣、菅田俊らの存在感も質感向上に大きな力となった。
ラストシーンはちょっと重くて難解だけど、全体的にはコメディ作品と見ていいだろう。
特典映像は15分ほどの舞台挨拶が収録されている。星は4つです。