瓶詰の地獄 (角川文庫)
夢野久作に初めて触れるにはちょうどいい傑作・佳作がそろっています。
いきなり「ドグラ・マグラ」に手を出したりせず、この本から入門しましょう。
米倉斉加年の表紙イラストもすばらしい。
ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)
単にミステリィといったカテゴリーではくくれない『宇宙』を持った日本文学史上例をみない作品だ。1935年の完成だが10年の歳月をかけ徹底した推敲に推敲を重ねている。小栗虫太郎『黒死館殺人事件』や、中井英夫『虚無への供物』とともに、日本探偵小説三大奇書に数えられるようだが文字の持つ力がこれほどまでに怒濤のように押し寄せ、読む者の心を不安定にしてしまう作品は世界中が探してもこの一冊だけかもしれない。
あらゆる意味で先駆的だ。『脳』に根ざすストーリー展開は現代本格の人々に多大な影響を間違いなく与えている。胎内で胎児が育つ10ヶ月のうちに閲する数十億年の万有進化の大悪夢の内にあるというエルンスト・ヘッケルの反復説を下敷きにした壮大な論文『胎児の夢』や、「脳髄は物を考える処に非ず」と主張する『脳髄論』に読む者は始めから翻弄され続け、区切りの無いストーリーに休む間さえ与えられない。
出てくるキャラクターもものすごく強烈だ。頻繁に笑い続ける正木博士vs若林博士vsあなたの脳の戦いが読了まで続けられる。読んだものは一生忘れられない強烈な一冊となること間違いなしだ。