信長と天皇 中世的権威に挑む覇王 (講談社学術文庫)
信長は畿内の諸勢力と対峙する過程で、
何度か挟み撃ちにあったり危機的状況に陥っているが、
そのたびに「袞龍の袖にすがる」形で朝廷に和睦の仲立ちを依頼し、
危機を切り抜けている。
実に朝廷の権威を都合よく利用していると言える。
そのあたりの状況と、周辺で動く公家たちの様子が詳しく描かれている。
しかし信長に無断での叙任・恩賞、利権争いなどが重なり
次第に両者は緊張関係に陥っていった、と著者は指摘する。
信長は自らの意のままにならない正親町天皇に譲位を迫り、
誠仁親王を殆ど人質同然に囲い込んだり、馬揃えで軍事的圧力をかけるが、
老獪にはぐらかされるばかりで徒労に終わっている。
本書からは、信長に天皇制の消滅までの強い意志があったとは考えづらく、
自らの意のままにならぬ正親町天皇個人の廃立と
代わりに傀儡となる天皇の擁立を企てていたに過ぎないのではないだろうか。
そう考えると「中世的権威に挑む」(本書の副題)というよりは
その権威を保持しながら恣にしようとした、というのが正確な表現であろう。
ここのところよく見られる冷徹なMachiavellistという信長像ばかりでなく、
冷静に当時の政治状況を分析して、より現実的な信長像を与えてくれる書である。
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