ジェントルマン
予定調和な展開とやや説明的な描写が立ちはだかり、物語の中へと
どっぷりと浸ることが出来なかった。
そのため、物語の支柱である主人公の夢生と漱太郎よりも、多くは
明らかになっていない圭子の胸の内の苦しさの方が印象に残った。
学問 (新潮文庫)
ざっと読んだ印象では、『ぼくは勉強ができない』に似ている(個人的には本書より、こちらのほうが好き)。タイトルはいかめしいが、内容は人生のお勉強だからだ。それも生と性の。各章は登場人物の死亡公告から始まる。生まれ年からその亡くなった年齢を考えると、かなり未来のものもある。主要登場人物プラス1人の計5人が登場し、小学校から高校までが描かれる。彼らの生まれ年は1962年だ。なので、かれらを取り巻く文化的なものは、山口百恵、ジュリー、ジャズ喫茶、ビートルズ、柴田錬三郎といったものが並ぶ。
仁美(フトミ)、心太(テンちゃん)、無量(ムリョ)、千穂という4人組、そして素子(モコちゃん)という登場人物が、お互いの家の環境や経済状況を背景に、子どもの頃は4人が無邪気に社宅の裏山にある「秘密の集会所」に集い、遊んでいた。しかし、思春期になると、体が変化し、性に目覚め、自慰を覚え、人を好きになり(両思いでも結ばれるわけではない「二人の関係をしまい込んだ玉手箱は、この先、当分の間、開けられることはないでしょう」)、引っ越しをして別れ、また再び4人が一緒になり、そして・・・という先は死亡公告から予想するしかないのだが、静岡の架空の市を舞台に、子どもから大人になる様(「美流間で四人組として過ごした、忘れられない沢山の記憶」)が細やかに描かれていく。
「いくら学んでも、心太が手にしたのと同じような「いいもん」を身に付けることなんか出来ない」し、それに「男の子の中にある木偶坊の要素が自分を引き付けて止まない」と、ある少女は男の子(心太)に憧れを抱くのだが、確かに心太は、普通ならその家庭環境では素直になれないかもしれないところ、人を惹きつける性質で英語塾にも特別に通え、また勉強できる環境も手に入れられる。でもガリ勉ではなく、しっかり人生の勉強もして、とバランスが非常に取れている。取れているのだが、死亡公告から、大学やその後の人生を類推すると何だか切ない。普通の人生だったろうな、と思わせられるのは上記の登場人物5人のうち、2人だけのように思える。どこか懐かしく切々とした物語だった。
シュガー&スパイス 風味絶佳 [DVD]
ごく普通の少年が青年へと駆け上がる階段の中で学ぶ恋の味。
それが、シュガー&スパイスだった。
映画を見終わった後、初心に戻った感があった。
触れたいけど、触れられないもどかしさ。
本当のことを言いたいのに言えないもどかしさ。
見終わって初めて付き合った頃の事を思い出した。
忘れていた気持ちを思い出した作品。
大学受験のための小説講義 (ちくま新書)
かつて高校生だった頃、"評論文"はそこそこ得意だった反面、"小説"が苦手だったことを思い出しました。ただ、コンスタントに成績が悪かったというより、むしろ好不調の波が激しかったので、苦手というよりも掴み所が無くてどう勉強したらよいか混乱してたと言った方が正確かもしれません。本書ではいわゆる「小説を読める」ようになる為、入試問題をモチーフに問題を解く為の暗黙のルールを審らかにしています。こう考えてみると、入試問題の「小説」は学校空間での道徳というか価値観をいかにして読み取らせるかに尽きるかだったんだなと今になって痛感させられました。もう十数年早く本書に出会ってればよかったですね。
佐野洋子〈追悼総特集〉100万回だってよみがえる (文藝別冊)
佐野さんは戦中派と呼ばれる年代だから、その死が早すぎるということはない。かといって大往生というほど生きてはいない。
親の死やボケ、自分の病気など、必ずみんながたどる道を歩き、精力的にお仕事をした。普通の人と違うのはやはり天才だったということ。
天才は、ごくあたりまえのことを、誰もが書かない視点で、その鋭さで皆をうならせてしまう。時にフッと、時に「ガハハ」と佐野さんの作品に笑った人は沢山いると思う。
利発な所はお父さんから、器用でたくましい所は母、静子さんから・・・・ムックの中の写真の佐野さんはとても和む。佐野さんにも幼少時があり、乙女の時代があったのだ。
随分いろんな方が佐野さんのことを語る。それも一流といわれる方たちばかりだ。
個人的に身内であった、息子さんと元夫の谷川俊太郎さんの対談が面白い。「本当はね」「いや、あれはね」などなど、行間からなにやら悲鳴なのかため息なのか、どうやらもう一人の生々しい?佐野洋子がいたようだ。ジロチョーというあだ名で呼ばれていたというのも面白い。やはり大陸育ちの突きぬけた明るさがあったのだろう。
とても正直に生きた佐野洋子さん、「100万回生きたねこ」の他に好きなエッセイをあげるとしたら、北軽井沢で地元の人たちとの交流、(料理をおすそ分けしたり)老いの日々を生き生き描いた「神も仏もありませぬ」が好き。「シズコ」さんとの和解もホロリとさせられる。
ご冥福をお祈りします。