アポロンの島 (講談社文芸文庫)
作者の留学中の地中海での旅行の経験を作品化したもの。筋というものが稀薄で、物語の進行の時間性がここには少ない。それとは逆に一つ一つの文章に、表現の鋭い的確さがあらわれている。旅の経験の瞬間的な出来事、行為、風景、それに対する作者の心理的な反応が、叙情を排した即物的な描写で示される。時間的な小説に対してこの小説は、空間的とも構造的ともいえる。余分な描写は一切切り捨て、見、聴き、感じたことが主体となってい、そのためイメージが明確で読みやすい。島尾敏雄に激賞され、作者が「内向の世代」として注目された記念碑的作品。