アルカトラズ幻想
面白かったんだけど、これは著者の提唱する21世紀本格ではないな。
なんというか、戦争秘話といった趣だ。
ただし、それがこれだけ面白いんだから、著者の筆は相変わらず達者だということだ。
むしろ、本格志向の最近の作品「ゴーグル男〜」と比べると、読後の充実感はずっと上だ。
どうやら著者も年を取って、こういうシミュレーション・ノベルというか、疑似実録ものみたいなものに面白いものが多い。
そして、あいかわらずのリーダビリティの高さはさすがだ。
さて、本作は女性の猟奇事件から始まって、アルカトラズ島の刑務所内へと舞台が移る。
その途中には地球空洞化説に関する論文が挟まっており、このあたりは「ネジ式ザゼスキー」のような体裁となっている。
そして、このアルカトラズ収容所の描写が、実に面白い。
もちろん、読んでいると違和感を感じるところが頻出するのだが、このあたりは著者としてもネタが割れるリスクを覚悟のうえで、エンタテインメント性を優先したのだろう。
あんな囚人同士のやりとりなんて、実際には考えられないだろうけれども、これが実にスリリング゛で面白い。
ただし、収容所内のストーリーの展開は、けっこう都合が良すぎる感じではある。
まあ、このあたりは本作の設定上、許容範囲なのであろう。
そして後半、不可思議なことが相次ぐのだが、このあたりはどうしても○○オチがミエミエになってしまうあたり、ちょっと惜しいかな。
しかし、この怒濤の展開というか力業は、さすが豪腕の著者だけのことはある。
この怒濤の展開がどうして生じたか、というのが本作の最大の謎になるのだが、伏線は張りまくりだし、論理的に読者が解明するという類のものではない。
ただし、伏線から創造は可能であり、おそらく普通の読者は容易にアウトラインは推測がつくだろう。
著者も特別にこの謎を強烈に前面に打ち出す意図はないようだ。
しかしながら、この謎がエピローグの余韻とアイロニーに繋がるあたりは、やはり稀代のストーリーテラーである。
本格ミステリを期待すると肩すかしを食うとは思うが、物語を堪能するという意味では、読んで損のない作品であるといえるだろう。
占星術殺人事件 (講談社文庫)
初めて読んだ時に、物凄い衝撃を感じました。
トリックも素晴らしいですが、助手の目を通して旅行気分が味わえるのも、とても楽しかったです。「平吉の手記」に出てくる府立高等(都立大学の前身)にも興味を覚えました(地元なので)。
しかし、乱歩賞の選評でトリックを明かしているのはいただけません(文庫には無いですが)。
少女たちの羅針盤 (2枚組) [DVD]
学生時代の親友に襲いかかった不幸は事故なのか、殺人なのか!
その真実が大人になって明らかに!
恋愛・友情・兄弟愛そして憎悪・・・
若いからこそ誰もが葛藤する感情を押さえきれない彼女たちの心情と
演劇に対する情熱がすごく伝わってくる、
等身大女子高生の青春ミステリーでした!
ストーリーは一度にニ度楽しめます。
青春ver>
演劇に情熱をそそぎ、友情と恋愛そして夢・・・等身大の女子高生の
青春ストーリー。
ミステリーver>
レイプ事件が勃発!そして自殺・・・なぜ?
親友の死の背後に黒い影の存在に気づくが、その正体はいったい・・・
友情の中に疑心半疑が生まれる。
DVDには、演劇の完全版を収録して欲しいですね。
あと、彼女たちのオフショット写真集が封入されているとなおうれしいです。
少女たちの羅針盤 Blu-ray (特典DVD付2枚組)
[ ※2012.1.20に投稿したDISCASレビューを転載または一部編集した ]
四人の少女全員均等に焦点をあてたシナリオはよくできてる。舞台劇が好きな人なら満足度は高いだろう。それぞれ傷を抱えた同志的友情は深度が感じられた。ミステリーが加味されているが、舞台劇ぽく捉えると友情を炙り出す方向でよく効いている。劇中劇も結構興味を惹きつける力があるし、ライターはそちらが本職じゃないのかな。
主役クラスの成海璃子は、本作と「武士道シックスティーン」しか観てないせいか、演技傾向が鈴木杏とかぶる。すべり気味すれすれの熱演はコメディタッチでおもしろい。
忽那汐里は徐々に巧くなっているのが感じられて嬉しいね。終盤のブランコシーンや謎解きシーンなど、好きだからか余計よく見えた。
森田彩華は一見屈託無く見えて陰のある男前少女を上手に演じていた。四人の中で三つか四つは年長だし一番巧かったかな。ヘアスタイルなど一時期の上戸彩(オスカーの先輩後輩関係でドラマでも何度か共演してる)を意識してるのかなとつい思ってしまう。
(端役じゃなく)メインの役を演ずる草刈麻有は初めて観たが好い役をもらったね。可愛いだけじゃないんだ。お父さんより巧くなりそう(爆)
※レーティングは、A+,A,A->B+,B,B->C+,C,C- の9段階。
透明人間の納屋 (講談社文庫)
奇怪な状況がきちんと論理的に説明されるのはいつもながらお見事。人間消失については正直いまひとつでしたけれども。
だけどミステリだけの意味合いでなく「人が消える」ことがきちんと描かれているのは凄さです。ずしんと上手い。
「今」「子供向け」だから多分島田さんはあえて書いたのだろうなぁと思います。たとえよくわからなくても、女の幽霊の不気味さや、消えた隣人や、作りかけのプラモデルや、透明人間の話にあるある種の哀切さを、きっと子どもは覚えている。地球は狭く、悲劇は本当にすぐそこにある。消えたのは自分の町の、自分の友達なのです。テレビで見る誰かではない。透明人間はそこにいる。誰にも気付いてもらえず、冷たい海の中に白い塊になって浮かんで終わる。それはお話ではない。いつかきっと気付く。そしてできれば、自分でその闇を解き明かして欲しいと島田さんは思っている。
まあ、この人のこの説教くさいところはあまり好きでもないですが。それとは別に、独特の郷愁やちょっとどきどきする展開は良かったです。読んで損はない、力のある作品だと思います。