鯨の王 (文春文庫)
読み終えてみれば、全体のストーリーは長いけれど単純ですが、展開の面白さに引き込まれて読み進めました。
この種の海底ものでは本来見える筈のないものを見えるように書いているケースが多いのですが、センサー技術の範囲内で臨場感溢れる可視化がなされ、少しずつ謎が解き明かされます。
その中で人間と自然との関係についていろいろと考えさせられる物語ですし、最初に散りばめられた謎が最後に一気に氷解するのは快感でした。
偶然は多かったものの、科学的に疑問符のつく記述がなかったこともストレスなく読み進めた一因です(イルカの脳を利用しての操船には無理があるでしょうが)。未知の新種の巨大生物などという到底考えられない設定も、これまで発見されなかった理由も納得できるものでした。
著者の経歴や「謝辞」に記載された人々、そして「あとがき」を読めば、科学的根拠がしっかりしている理由がわかります。
蛇足ながら、「あとがき」は思い切り笑えます。
クリスタルサイレンス〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)
ハイドゥナンが文庫化されたときに、特に大きな期待もなく手に取った本でした。
結果・・・凄すぎます。
宇宙・サイバーパパンク・未知の生命体・アクション、様々なSF要素が盛り込まれており、ストーリー展開に引き込まれてしまいました。
この小説を読み終わった後には、いろんなジャンルのSFが読みたくなってしまいますので注意が必要です。初めてSFを読む方にも十分にお薦めできます。
辺境生物探訪記 生命の本質を求めて (光文社新書)
圧倒的にタフでフットワークが軽い生物学者が、深海や地底などの極限環境に生きる生命の話を、
ベストセラー作家との対談形式で綴ります。
その極限の環境でいきる生物の不思議さ、おもしろさについては、あえて言葉を足すまでもありません。
興味津々で、明日も仕事だっつーのに、ほぼ徹夜で読んでしまいましたよ。
で、本書のおもしろさというか意義は、メインのテーマである謎な生物の興味深さで尽きるものではあり
ません。それぞれの対談は、実際の極限環境に近いロケーションで行われます(砂漠の生命を語るの
に、鳥取砂丘に行ったりとか)。これは聞き手である作家氏が、せめてもの臨場感を得たいがために選
択した形式だったとか。
でも、擬似的な臨場感だけではなく、結果的に、日本における先端研究施設巡りの観を呈していま
す。そして、それぞれの現場では、インディ・ジョーンズ氏が、そこでの研究それ自体のあれこれ(いや、
穴を掘るのは金がかかるのよ〜とか、共同研究プロジェクトでデータは共有したいからね〜とか)も勢い
で語っています。
これがまた興味深い。
理系離れとかイノベーションの枯渇とかいわれる昨今、実はいろんなところで、いろんな制約に苦しみな
がらも、うちらの国は、しっかり先端的な研究を粛々と進めていたのだってことがわかってしまいます。
そりゃそうで、いかに生物学者氏がタフで有能であっても、バックアップの多くの職員・施設・資金がなけ
れば、こんな研究はできない道理ですから。
そして、まだどんな結果が出るかはわからないけれども、「きっと、こういうことがわかるんじゃないか」とか
「こういうことを調べるには、こんなこと(海水に溶けている分子濃度の偏差から、このあたりになんかある
と当たりをつけるとか諸々)をしなきゃ」といった、戦略を持ったうえで、研究をすすめているところとか。
事業仕分けをする人々に読んで欲しい一冊ですよ。