福島孝徳とチームプロトン 陽子線が拓く21世紀のがん治療
最近のがん保険には先進医療特約というものがつき始めたことに気づいている方も多いと思う。
保険のきかない高度な医療をするときのためのものだが、がん治療にあっては本書のような粒子線治療を行うときに役に立つ。このような治療をするには300万円ほどかかる場合があるからだ。
本書には「福島孝徳」という名前を冠しているがこれはフラッグ的なもので、中身は民間で初めて陽子線治療施設を作った福島県郡山市の南東北がん陽子線治療センターが舞台となっている。(各患者の実例の箇所でDr福島ののコメントはある)
がん治療といえば、通常外科手術や抗がん剤治療、放射線治療などがある。
もちろんそれらで有効な場合もあるが、デメリットがあったり、どうしても除去できないがん細胞もあったりする。そんなとき、最新の技術が放射線治療の中でも粒子線、ここでは水素原子を使った陽子線を照射する技術が役に立つ。
これまでこうした粒子線を使った治療は官公立の施設しかなかった。
そこでは主に研究目的のために利用も制限されていた。
しかし、南東北がん陽子線治療センターが誕生したことで隣接する総合病院とも連携して様々なタイプのがん治療に対応することができるようになった。
本書ではセンターの立ち上げまでの経緯やその様子から運用、実績、もちろん陽子線治療とは何か、その他の治療との併用、各種がん治療の説明、患者の声、スタッフの紹介などが記されている。
ホリスティック医学入門 ――ガン治療に残された無限の可能性 (角川oneテーマ21)
自分の手に負えなくなった時の医師の言葉は、「もう治療法はありません。緩和ケアに行って下さい」と。しかしガンの場合は脳卒中や心臓病とは違い、多くの治療法があり考える時間もある。どんなに進行したガンであっても「もう方法がない」ということはなく、希望を失う必要など全くないと言う。ガンと宣告され手術・放射線・抗がん剤を単独か組合わせて治療するのが「西洋医学」で肉体に働きかける治療法だ。しかし再発ガンや転移で行き場を失ったガン難民は68万人いる。そこで漢方薬、気功、食事療法、サプリメント等々で自然治癒率を高める戦術で、精神や魂という場に働きかける治療法が「代替療法」だ。現在は医師が病名をはっきり告知するしそれは必要であるが、余命告知をすべきではない。何故ならば患者の希望を奪ってしまう権利は医師にはないからだ。希望は医療に欠かせない永遠の真理であり、「ガンはミステリアス」であることからよく奇跡も起こる。これこそ所謂「自然治癒力」が最大限に発揮されたということなのだろう。それがホリスティック医学ということらしい。本書に書かれる「場」「気」という言葉が理解できた気がした。医師と患者の信頼関係や、家族のサポートや、友人関係や職場や地域の中で、いい場に自分を置くことがポイントである。熱中したり夢中になると自分の場を高め、心がときめき生命エネルギーの小爆発が起きるということだ。残念ながらガンには再発や転移があり得るし、その際には大きく気が滅入るだろう。そこで自分の「いのちの場」が重要であり、自分の生が幸せだと思う気持ちが自然治癒力に大きな味方になる。ということで本書から得たものは多く、ガンと付き合うのであれば心や身体の総合的に対処するに「代替療法」の効果も能動的に積極的に取り入れていきたいと思う。
神の手の提言 ――日本医療に必要な改革 (角川oneテーマ21)
日本の医療費は、どんなに上手い医師でも、下手な医師でも同額の手術に対する技術料しか取れず、そこに格差をつけねば技術上達が進まないとか、患者側からの選ぶ目安にならないとか、赤字で医療機関が崩壊するとか、述べている意味は分かるが、これは医療格差を拡大はしないか?
著者の専門である脳神経外科は、既に混合診療が行われている歯科や美容整形とは異なり、代替がない分野であり、格差をつければ、症状に合わせてできるレベルの医師を選ぶのではなく、患者自身の資産力によって医師が選ばれるのではなかろうか?
日本では、高額療養費請求で払い戻しの制度もあり、著者の医療を、医療側の請求金額も異なるのだが、他国と比べて安価で受けられている。
患者の優先順位を何によって決めているのか書かれていないが、選別は著者ではなく、病院側が行っているのならば、払いの良い患者が優先されてしまっている例もあろう。
また、公共事業や公用車・天下りを無駄という点に賛成はするが、格差をつければ総医療費自体も膨らむ。
予防医療に点数が付かず、自身でも生活習慣を変えずに薬に頼り、救急を要する症状でもないのに、通常の診療時間に行けないからと救急の時間に訪れる患者の意識改革こそが、1番に行わねばならぬ事だと考えるが、それについての言及は2P程で、家庭医を整備せよ、だけで終わってしまっているのにも不満。
また本書刊行後の2010年5月、千葉の塩田病院附属福島孝徳記念病院で院長を務め、数多くの脳神経外科治療に携わってきた北原功雄氏が、「医療法人塩田病院との病院運営方針の相違に起因する。」、「運営方針の相違は埋めがたく、本来の業務である脳脊髄疾患の治療にも支障が生じかねず、断腸の思いでの選択となった。」と辞任し、千葉徳洲会病院の脳脊髄神経外科センター長となった。
著者は直接関係なく、事務局長との経営的問題があったのかもしれぬが、本書でこれだけの提言をしている本人の名前を冠した日本唯一の病院で、1番弟子的な医師が離職せざるを得ないとなると、腕は兎も角、提言に一歩でも自身は進めようとしてるのか、人間性としてはどうかと少し首を傾げる部分も出てくる。
長々と苦言を呈したが、基金を作り後進を育てたり、医学生の共用試験・専門医の免許更新制による振り分けなど本書の大筋には賛成するので、減点はしなかった。
自身の自慢話がふんだんに盛り込まれ、そこが鼻をつくが、そこを除けば頷きの多い書ではあった。