柳生武芸帳〈上〉 (文春文庫)
戦乱も治まり、太平を謳歌しはじめた江戸三代将軍徳川家光の時代、将軍家剣術指南役柳生家に伝わる、それが世に出れば幕府の権威は失墜、再び戦乱の世に戻るほどの秘密が隠されているといわれる武芸帳を巡って、但馬守宗矩、十兵衛三厳、兵庫介利厳ら、当の江戸・尾張の柳生一族、疋田陰流の使い手、山田浮月斎の一派、滅亡した竜造寺家の再興を夢見る遺臣の一味、さらには老中土井利勝、松平伊豆守ら幕府の重臣たちも加わっての一大争奪戦。果たして誰が柳生武芸帳を手に入れるのか?そこに書かれている秘密とは?
有名無名、実在架空の剣豪たちが多数登場、誰と誰が仲間で誰が敵で、この人はなぜ武芸帳を狙っているのか、今は誰が武芸帳を手にしているのか、気を抜くとわからなくなってしまいそうなくらい次々と差し挟まれていく挿話の数々、命を懸けた真剣勝負の緊迫感、「剣を出世の道具にした」と、よく敵役にされる柳生宗矩の、一流の剣の腕を持ち冷静沈着、胸の奥に恐るべき鬼謀を秘めた本作での人物像などなど、魅力を挙げていったらきりがないくらい。
いやぁ、おもしろかった。かなり長い話ですが、読み出したらページをめくる手が止まりません。傑作です。
薄桜記 (新潮文庫)
NHKのテレビ化で興味をもっての読了。品格があり、作者の識見も明白で、じっくり堪能できる佳作です。テレビも品よく製作されていましたが、原作の上質さは格別でした。あらためて五味康祐という作家の懐の大きさを実感しました。時代小説はこうでなくては。無闇に情調を強調しないところが、作品の深みなっています。教条的、という印象を持つ読者もあるでしょうかれど、史実に巧みに虚構を交えるところが作家の腕の見せ処、より多くの人に読まれるべき作品です。最高点をつけておきます。
NHK VIDEO 薄桜記 ブルーレイBOX [Blu-ray]
山本耕史主演のNHK時代劇ということで大いに期待して毎週オンエアーで見ました。
配役、脚本、演出どれも申し分なく毎週唸りながら時には涙しながら11週間あっという間に過ぎました。
これはストーリーなど細かな事は書かないほうがよさそうです、とにかく主人公は架空の武士、ある事情でお家が取り潰しになりしかも片腕を失います。そして気が付くとあの悪名高き吉良上野介(長塚京三)の用心棒となり、討ち入りを阻む役を命ぜられます。片腕ながらも無敵の剣豪と敵対する赤穂側の堀部安兵衛との友情、ダブルヒロイン、柴本幸とともさかりえ等全てが見ものです。吉良側から見た「討ち入り」も新鮮な解釈で歴史的にも楽しめますので大河ドラマ好きの方でも満足できる切ない系時代劇、しかし外国人には理解しがたい世界でしょうね。最終回は体が震えます、悶えます・・・「陽炎の辻」ファンも絶対見逃さないで。
薄桜記 [DVD]
有名な昭和34年製作の森一生監督作品であるが、これは実に評価が難しい。
ラストの市川雷蔵の雪の中での立ち回りと勝新太郎の殺陣は評判どおり大変素晴らしいのだが、そこに至るまでのケレン味のある風変わりな演出は、現在の目から見ると、奇をてらう意図しか見えてこず、かえって古さを感じる。そして、脚本も古色蒼然としており、武士の体面の故に腕をなくしてでも妻を離縁しようとする雷蔵や、また夫の敵に陵辱されて謝るばかりの妻のどちらにも感情移入できないのが難点である。特に、ヒロインに演技上問題のある新人女優を起用したせいで、重要な場面で興ざめすること夥しい。
それに比べると勝はよく奮闘しているが、物語では狂言回し的な役割を与えられているにすぎず、実際映画を引っ張るほどの力はない。
要するに、大変よく作り込まれているものの、作品全体に「今では入り込めない古めかしさ」をどうしても感じてしまうのだ。公開当時は高評価だったのだろうが、その古色を気に入るか否かでこの作品の好みが分かれてしまうのだろう。
いい音 いい音楽 (中公文庫)
標題のとおり、いい音・いい音楽を追求して、
歯切れのよい評論をしている。
「思い立ったらたとどまらない」という評論なのでなかなか面白い。
なかなか面と向かって言えないことを、
感性や様々な体験に基づいた評論は、
本当に読んでいて引き込まれてしまう。
これは、きっと、いい音・いい音楽に対する「こだわり」であろう。
すがすがしい。
それ相応の「造詣が深い」といえる評論であるからこそ、
読んでいて気持ちがいい。
小論ばかりで構成されているので、
最初から読む必要がない。
ちょっと読みたくなって読むと、
やっぱりこの本の内容に引き込まれてしまう。
「納得、納得。」